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第1章 地球温暖化に関わる海洋の長期変化
1.2 海面水位の要約はこちら
平成20年10月17日
IPCC第4次評価報告書(2007)によれば、20世紀を通じて世界を平均した海面水位は1年あたり1.7±0.5o(信頼度90%の範囲を±を付記した数値で示している)の割合で上昇した。このうち、1961年から2003年にかけては1年あたり1.8±0.5mmの割合で上昇しており、その原因は地球温暖化による海水の熱膨張および山岳氷河や南極などの氷床の融解であると考えられている。ここでは、世界平均の海面水位と同様に日本沿岸の海面水位について、2007年までの約100年の長期変化傾向を診断する。
ここ約100年間の日本沿岸の海面水位は、世界平均の海面水位にみられるような明瞭な上昇傾向は見られない。1950年ころに極大がみられ、また約20年周期の変動が顕著である。一方で、1980年代半ば以降(1985〜2007年)の上昇率は年あたり3.2[2.2〜4.2(信頼区間95%の見積もり幅)]mmとなっている。なお、日本沿岸の海面水位について年平均値を高い方から並べると、1960年以降の第1位から第10位は、第6位の1972年を除いて1998年から2007年までの最近10年間に観測されている。
約20年周期の変動については、主に北太平洋の偏西風の強弱や南北移動を原因としていることが数値モデルを用いた解析により明らかになった。また、海面水位の変化と表層水温の変化には良い対応がみられ、特に東シナ海で良く一致している。
地球温暖化は海面水位の上昇を引き起こす。海面水位が上昇する原因は、主に水温の上昇にともなう海水の膨張や、山岳氷河・南極・グリーンランドの氷床の融解にともなう海水の増加と考えられている。
海面水位の上昇によって、海岸浸食、高潮・高波・異常潮位などの沿岸災害の激化、沿岸湿地喪失などによる沿岸生態系・淡水生態系への影響などが予想される。海面水位上昇は、特に、海抜高度の低い珊瑚礁の島や環礁からなる国にとっては深刻な脅威となる。
環境省の地球環境研究総合推進費戦略的研究プロジェクト「温暖化影響総合予測プロジェクト」(2008)は、海面水位上昇の我が国への影響として下記に挙げる社会基盤施設と社会経済への影響を指摘している。
※汽水域:海水と淡水とが混じり合った低塩分の水域
IPCC第4次評価報告書(2007)では、過去及び将来の海面水位変化について下記のとおり結論づけている(図1.2-1)。
図1.2-1 世界平均の海面水位の過去及び将来予測における時系列(1980-1999年平均を基準とする)
IPCC(2007)より引用。
灰色の陰影:海面水位の長期的な推定上昇率の不確実性を示す。
赤色 :赤線は潮位計による世界平均の海面水位を再構成したもので、赤い陰影は変動範囲を示す。
緑色 :人工衛星の高度計によって観測された世界平均の海面水位を示す。
青色の陰影:SRES A1Bシナリオ(注)に対する21世紀の予測範囲を示す。
注)SRESは、IPCC「排出シナリオに関する特別報告書」(2000)を指す。今後の世界の社会・経済動向に関する想定から算出した温室効果ガス排出量の将来変化シナリオを規定したもので、A1Bシナリオは「すべてのエネルギー源のバランスを重視して高い経済成長を実現する社会」とされている。
人工衛星に搭載された高度計による観測が行われるようになり、世界平均の海面水位は現場だけの観測データを用いていた時に比べ正確に見積もることができるようになった。IPCC第4次評価報告書では、1993年から2003年までの海面水位の上昇率を人工衛星の高度計による観測から3.1±0.7mm/年と見積もっている(図1.2-2)。
海面水位変化率の分布図によれば、外洋における上昇率は一様ではなく、直近の10年間ではエルニーニョ/ラニーニャ現象に関連する年々変動の大きな西太平洋及び東インド洋でもっとも大きい。大西洋では、(メキシコ)湾流の周辺を除き海面水位が上昇している。一方で、東太平洋及び西インド洋では海面水位が低下している。
岩崎ほか(2002)は、日本沿岸の海面水位の長期変化傾向を検出するために、まず、国土地理院の水準測量データから、各検潮所の基準面がどの程度地盤変動の影響を受けていたのか見積もった。この結果を使って、地盤変動の影響を除去した30年間(1969〜1998年)の各検潮所における年平均海面水位(各年の日本水準原点に相対的な値)を求め、東経137度を境に西日本では2.4mm/年で上昇、東日本では3.1mm/年で下降していることを示した。また、Senjyu et al.(1999)は、日本沿岸の海面水位変動の特性を調べ、日本の沿岸全体に20年程度の周期をもつ変動があることを見出した。
IPCC第4次評価報告書では海面水位上昇に大きな影響を与える要因として
の4つを挙げ、それぞれの要因別に海面水位上昇率を評価している(図1.2-3)。
1961年から2003年の期間では海水の熱膨張と氷河・氷帽の融解が同じ程度海面水位上昇に寄与していると見積もられたが、4種類の要因の合計は観測によって得られた海面水位上昇より小さく、海面水位上昇の原因となっている様々な要因を十分に評価できていない。
1993年から2003年の期間ではいずれの要因も1961年から2003年の期間よりも海面水位上昇への寄与が大きくなり、特に海水の熱膨張の寄与が顕著に大きくなる。4種類の要因の合計は観測によって得られた海面水位上昇に近い値を示している。
気象庁では、日本沿岸の71地点で潮位の観測を実施するとともに、他機関の検潮所の観測データも用いて海面水位を監視している。
日本沿岸の平均的な海面水位の長期傾向をつかむためには、できるだけ長期間にわたる地盤変動の少ない地点の潮位観測データが必要である。このような条件にある地点として、図1.2-4に示すとおり、1906年から1959年までは4地点を、1960年以降は16地点を選択した。前者については4地点毎の年平均潮位偏差の平均値を日本沿岸の長期的な海面水位の評価に用いた。後者については、地域の偏りを受けないようにするため、まず16地点を長期変動パターンの類似している4海域に分け、海域毎に年平均潮位偏差を求めた後、4海域を平均した値を日本沿岸の長期的な海面水位の評価に用いた(偏差は1971〜2000年平均値からの差を表す)。
(1)で求めた経年変動を図1.2-5に示す。
期間により地点数が異なるが、1960年以降の16地点における偏差の5年移動平均値(赤線)と4地点における偏差の5年移動平均値(青破線)は類似した変化傾向を示しており、この図は日本沿岸の海面水位の長期変化傾向をよく表していると見ることができる。
1950年ころに極大がみられ、また約20年周期の変動が繰り返されている。日本の気温が過去約100年間、比較的単調に上昇している(気象庁,2005)のとは異なり、ここ100年の日本沿岸の海面水位には、世界平均の海面水位にみられるような明瞭な上昇傾向はみられない。一方で、1980年代半ば以降(1985〜2007年)の上昇率は年あたり3.2[2.2〜4.2]mmとなっている。
IPCC第4次評価報告書と同じ期間で日本沿岸の海面水位の変化を求めると、20世紀を通した期間では有意な上昇を示さなかった。1961年から2003年にかけては年あたり0.9±0.5mmの割合で上昇し、1993年から2003年にかけては年あたり5.0±2.7mmの割合で上昇した。
なお、日本沿岸の海面水位について年平均値を高い方から並べると、1960年以降の第1位から第10位は、第6位の1972年を除いて1998年から2007年までの最近10年間に観測されており、近年は海面水位の高い状態が続いている。
地球温暖化にともなう海面水位の上昇を検出するためには、図1.2-5にみられる約20年周期の変動や1980年代半ば以降の大きな上昇の要因を特定する必要がある。
Yasuda and Sakurai(2006)は、米国環境予測センター(NCEP:National Centers for Environmental Prediction)によって解析された風データを外力として使用し、数値モデルを用いて1960年から2002年までの日本近海の海面水位変動の再現実験を行い、その要因について考察した。図1.2-6に示されるように、モデル結果は1990年代以降の海面水位の上昇を再現できていないが、前述の約20年の周期性はよく再現している。このモデルを駆動した風の変動を解析することにより、日本近海における海面水位の変動は、主に北緯30〜50度、西経180〜150度を中心とした北太平洋中央部における偏西風の位置と強度の変化による海洋表層での海水の収束・発散によってもたらされることが明らかになっている。この海洋表層での海水の収束・発散は水温躍層の深度変化をともない、海洋内部の水温分布の変動を引き起こす。
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図1.2-7 偏西風の強風軸が南北に移動した場合の風応力の変化 上段:偏西風が北に偏った場合と南に偏った場合の風応力の差の分布。 |
図1.2-7は、偏西風の強風軸が南北に移動した場合に日付変更線付近の海域に生じる風応力の変化を示している。偏西風が北に移動した場合、高緯度側では西風が強まり、低緯度側では西風が弱まる(低緯度側では東風成分が強まることに相当する)。北半球では地球自転の影響が風下方向の右側へ海水を押しやる効果をもつので、偏西風の軸が北に移動した結果、北緯40度付近を中心に海水が集まり、この海域の海面水位が上昇する。上昇した海面水位偏差は地球自転の影響を受けて西向きに伝播し、4〜5年かけて日本沿岸に到達して日本付近の海面水位を上昇させる。
一方、偏西風の位置は変わらずに風速が増加した場合、上と同様に地球自転の影響による海水の移動が生じて、北緯37度付近を境として高緯度側の海面水位が低下し、低緯度側の海面水位が上昇する。この変化もまた西向きに伝播し、北太平洋中央部で偏西風の強弱に変化が生じてから4〜5年遅れて、北日本と西日本で逆の海面水位の変動を生じさせる。これらの風の変動には約20年の周期性がみられるため、日本沿岸の海面水位も約20年の周期で変動していると考えられる。
上記はYasuda and Sakurai(2006)による数値モデルを用いた変動要因の考察であるが、海洋観測データを用いた考察も行われている。海面水位は海水の容積の変化によって変動するが、これは、水温と塩分の変化から算出できるので、海洋内部のこれらの観測データから海面水位の変動を知ることができる。
野崎ほか(2005)は、日本周辺海域における過去30年余りの観測データの解析から、日本の南方や父島周辺海域の海面水位の変動が、主に300m以深の海洋内部の水温変動によって引き起こされていることを示した。この水温変動は北太平洋中央部における水温躍層の深度変化が伝播して生じたものであり、上記のYasuda and Sakurai(2006)による数値モデルの結果を観測データから支持する結果となっている。一方で、南西諸島周辺では次に示すように変動の要因が異なっている。
東シナ海の海洋観測点PN-1(図1.2-8)における海面水位の変動を図1.2-9に示す。これは海面から水深200m付近までの表層の水温と塩分の観測データから求めたものであるが、その変動は主に水温の変動によって生じている。那覇の海面水位の変動と比較すると、周期、振幅ともよく一致しており、南西諸島周辺の海面水位の変動が海洋表層の水温変動に起因することがわかる(金子ほか,2003)。これは、300m以深の海洋内部の水温変動によって引き起こされる海面水位の変動が卓越する日本南方海域の特徴とは異なっている。この表層水温の変動が、海面からの加熱によるものか、黒潮によって運ばれる熱量の変動によるものかについては調査中である。図1.2-6で示したYasuda and Sakurai(2006)の結果が1990年代以降の観測データと一致していない原因についても、同様な観点から調査を進めている。
ここ100年の日本沿岸の海面水位には、世界全体を平均した海面水位にみられるような明瞭な上昇傾向はみられない。1950年ころに極大がみられ、また約20年周期の変動が顕著である。一方で、1980年代半ば以降(1985〜2007年)の上昇率は年あたり3.2[2.2〜4.2]mmとなっている。日本沿岸の海面水位について年平均値を高い方から並べると、1960年以降の第1位から第10位は、第6位の1972年を除いて1998年から2007年までの最近10年間に観測されている。
数値モデルを用いて再現した1960年以降の日本沿岸の海面水位の変動は、1990年ころまでの約20年周期の変動をよく表現している。この変動の主要因は、北太平洋中央部における偏西風の位置と強度の変化にともなう海水の収束・発散によって生じた海面水位偏差が伝播してきたことによると考えられる。日本南方での海洋観測データもこの推論を支持している。
一方、南西諸島付近では、海洋観測データから求めた海面から水深200m付近までの海水の密度変化にともなう海水の厚みの変動と沿岸で観測された海面水位の変動がよく一致しており、表層水温の変動が海面水位の変動に影響を及ぼしていることが強く示唆される。
このように、日本沿岸の海面水位はさまざまな要因で変動しており、地球温暖化の影響がどの程度現れているかは明らかでない。地球温暖化にともなう海面水位の上昇を検出するためには、地盤変動の影響も含めて更なる調査が必要である。
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