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大気を構成するのは気体成分だけではない。雲粒のほか、エーロゾルと呼ばれる、固相、液相またはそれらの混合した相の半径1 nm程度から10 μm程度の浮遊微粒子も重要な構成要素である。エーロゾルには、人為起源あるいは自然起源のガスから粒子変換で生成される硫酸(塩)、風による巻き上げで発生する海塩、ダスト(黄砂)、化石燃料やバイオマスの燃焼によるすす(黒色炭素及び有機炭素)などがある。また、大規模な火山噴火により成層圏へ吹き上げられた火山ガスは、成層圏での大量のエーロゾル生成を引き起こす。なお、黄砂については、第4.3節にまとめて解説する。
エーロゾルによる大気全層の濁り具合は「エーロゾル光学的厚さ」で表される(詳細は第7.2.8節参照)。また、大気による日射の減衰の程度を表す「大気混濁係数」は、エーロゾルや水蒸気、オゾンなどのない仮想的な大気の光学的厚さに対して実際に観測された光学的厚さの比で表される(詳細は第7.2.10節参照)。
エーロゾルは、直接的には、日射を散乱・吸収して地上に到達する日射量を減少させ、気温を低下させる日傘効果を持つ。一方で地球からの赤外放射を吸収・再放射するという温室効果も持っている。さらに、これらの直接的な効果の他に、雲粒の核となる微粒子(雲核)として雲の性状(雲粒の数や粒径分布や滞留時間)を変化させることにより、間接的に地球の放射収支を変えるという効果も持っている。対流圏中のエーロゾルは一般に寿命が短く、地上や海面からの放出量も変化が大きいので、その濃度は時間や地域によってかなり変動する。そのため、その分布と変動の把握は難しい。
IPCC(2001)では、産業革命以来のエーロゾル量の変化による直接的な放射強制力を、硫酸塩エーロゾルでは-0.4 W/m2、バイオマス燃焼によるエーロゾルでは、-0.2 W/m2と見積もっている。一方、エーロゾルの間接的な効果は放射強制力にして0から-2 W/m2と広い不確定性を持っており、この値は、温室効果ガス全体でのおよそ2.4 W/m2に匹敵するほど大きい。
さらに、大規模な火山噴火は多量の二酸化硫黄を成層圏に注入し、そこで硫酸塩エーロゾルの発生を引き起こす。成層圏での大量のエーロゾルは広範囲な領域に対して長期間にわたって日射に影響を及ぼすことがある。例えば1991年に噴火したピナトゥボ火山は、噴火後約2年間にわたって全球平均気温を0.1〜0.2℃低下させた(Robock and Mao, 1995)。
また、気候だけでなく、局所的には、大気の質の悪化や酸性沈着(酸性雨)にも関与するとともに、黄砂のようにその地域の社会生活に著しい影響を及ぼすものもある。
大規模な森林火災は大量のエーロゾルを煙として放出する。春から秋にかけてシベリアの亜寒帯森林で、規模や発生域の違いはあるものの、ほぼ毎年森林火災が起こっている(Wotawa et al,.2001; Balzter et al., 2005)。2003年5月にはバイカル湖付近で大規模な森林火災が発生し(例えばNedelec et al., 2005)、それからの煙が日本へ流れ込んで北日本の日照時間が減少する現象が起こった(気象庁, 2005b)。
一般に、森林火災の煙によるエーロゾルは、直接的に日射をさえぎるだけでなく、雲の凝結核(雲粒を作るもと)を供給することにより雲量を増やし、その雲が日射を反射する間接効果も加わり、地球を寒冷化させる方向に働くと考えられている。シベリアに限らず、東南アジアや南米など世界各地で、森林火災は毎年かなりの頻度で発生しており、それらの煙は気候変動に充分影響を与えうる。Penner et al.(1992)によると、その影響の大きさは産業革命以降の放射強制力の変化として最大-2 W/m2に達すると見積もられている。Hobbs et al.(1997)は、全地球平均では-0.3 W/m2と計算しているが、これはIPCC(2001)によって見積もられた硫酸塩エーロゾルの効果に匹敵する。しかし、これらの値には、まだ不確定な部分が多く含まれている。
エーロゾルの多くは太陽光を反射・散乱し、直接的には大気を冷却する効果を持つ一方で、ブラックカーボンと呼ばれるすすの一種のエーロゾルは、太陽光を吸収し大気を暖めて温暖化を促進する。このブラックカーボンは石炭やディーゼルエンジン、薪などの生物燃料、バイオマスバーニングなどの不完全燃焼から放出される。中国は、それらの燃料が広く使われるとともに、その燃焼温度が比較的低いため、ブラックカーボンの放出が特に多いとされている(Streets et al., 2001)。
ブラックカーボンの特徴は、太陽光の吸収により直接大気を暖めるだけではなく、大気を暖めた結果、大気の鉛直気温分布や水蒸気、潜熱フラックス、鉛直対流の強さなどに影響する(Wang, 2004)。このため、ブラックカーボンはこれらの変動を通して、大気の大循環や降雨のパターンを変える恐れがある。Menon et al. (2002)は、モデルを使った計算と実際の観測を比較して、過去数十年の中国における、南部での降雨増加、北部での干ばつの増加は、ブラックカーボン増加との関連の可能性があることを指摘している。
WMOでは、国連環境計画(UNEP)などと協力してAtmospheric Brown Cloud (ABC) プロジェクト(http://www-abc-asia.ucsd.edu/)を立ち上げ、この影響の把握に努めている。日本でも気象庁気象研究所をはじめとして、大学、研究機関がこのプロジェクトに参加している。今後も引き続き、気候に影響する要因の一つとして、エーロゾルに注意を払っていく必要がある。
気象庁では、GAW計画(第8.2.1節参照)のもと、綾里、南鳥島、与那国島及び南極の昭和基地でサンフォトメータによる波長別のエーロゾル光学的厚さの観測を行っている。観測の結果は、GAWエーロゾル世界資料センターに報告され、地球全体の監視の一翼を担っている。綾里ではライダーを用いたエーロゾルの鉛直分布の観測を行っている。また、札幌など全国14地点と昭和基地で直達日射計による直達日射量及び大気混濁係数の観測を行っている。サンフォトメータによるエーロゾル光学的厚さ観測の詳細については、第7.2.8節を参照のこと。ライダーによるエーロゾルの鉛直分布の観測方法については、第7.2.9節を参照のこと。直達日射計による大気混濁係数の観測地点については、第7.1.3節を、観測方法については、第7.2.10節を参照のこと。
これらにより、気候を駆動している大きな要因である日射量に影響するエーロゾル分布及び大気混濁係数を長期にわたって監視することによって、気候変動の要因の解明に貢献している。
3 参考文献 <<前へ | 次へ>> 4.1 サンフォトメータによるエーロゾル光学的厚さ