総括要旨

総括要旨

 気象庁が実施している、温室効果ガス、オゾン層と紫外線、エーロゾルと日射量、降水・降下じん、及び海洋汚染に関する、2009年までの観測及び解析の結果概要は、以下のとおりである。

二酸化炭素

  • 綾里、南鳥島及び与那国島で観測された大気中の二酸化炭素濃度は、いずれの観測点でも、冬季から春季に濃度が高く、夏季から秋季に濃度が低いという季節変動と、年とともに濃度が増加する傾向が明瞭に見られる。最近10年間の長期変動傾向をみると、綾里で1.85 ppm/年、南鳥島で1.91 ppm/年、与那国島で1.89 ppm/年の有意な増加トレンドが見られる。

  • 温室効果ガス世界資料センター(WDCGG)に報告された2009年までの二酸化炭素濃度観測データを用いた解析によると、2009年の全球平均濃度は386.8 ppmとなっており、産業革命(18世紀後半)以前の平均的な値である280 ppmに比べて38%増加している。

  • 2009年の表面海水中と大気中との二酸化炭素濃度を見ると、東経137度線の冬季及び夏季の多くの緯度で大気に対する海洋の分圧が平均値を下回った。

  • 東経137度線の北緯7〜33度で平均した二酸化炭素濃度は、2009年冬季の大気中では388.1 ppmで前年より0.1 ppm増加、1984〜2009年の平均で1.7±0.1 ppm/年の割合で増加であった。一方、同期間の表面海水中では、342.5 ppmで前年より2.7 ppm減少、1984〜2009年の平均で1.5±0.2 ppm/年の増加で、表面海水中と大気中との間の濃度差は増加している。


2009年の大気中二酸化炭素濃度の観測結果。

2009年平均濃度
(ppm)
前年との濃度差
(ppm)
日本綾里389.7+1.2
南鳥島388.0+1.4
与那国島389.4+1.4
世界386.8+1.6

綾里、南鳥島及び与那国島の大気中の二酸化炭素濃度月別値と、季節変動成分を除いた濃度の経年変化

綾里、南鳥島及び与那国島の大気中の二酸化炭素濃度月別値と、季節変動成分を除いた濃度の経年変化。

緯度帯別の大気中の二酸化炭素濃度の経年変化

緯度帯別の大気中の二酸化炭素濃度の3次元表現図(1983〜2009年)。

逆解法による陸域と海域の月平均総二酸化炭素放出量とエルニーニョ監視指数との関係

逆解法による陸域及び海域の月平均総二酸化炭素推定放出量(負は吸収量を示す)とエルニーニョ監視海域(NINO.3)(北緯5度〜南緯5度、西経150度〜西経90度)の海面水温の基準値(その年の前年までの30年間の各月の平均値)からの差との関係。推定放出量は、バックグランドとしての放出量(海洋は−2Gt/年、人為起源を含む陸域は4Gt/年)が差し引かれている。


2009年の海洋の二酸化炭素の観測結果。

2009年の値前年の値との差
平均濃度
(ppm)
冬季の東経137度
(北緯7〜33度)
大気388.1+0.1
海水342.5−2.7
正味交換量
(推定値、PgC/年)
北西太平洋亜熱帯域
(東経130〜165度、北緯11〜30度)
−0.076−0.015(注)
太平洋赤道域
(東経135〜西経95度、南緯10〜北緯5度)
+0.48−0.15(注)


注:交換量の算出に用いる解析値を変更したため、大気・海洋環境観測報告第10号に掲載された交換量と比較した数値とは異なる


大気−海洋間の二酸化炭素分圧差の分布。

大気−海洋間の二酸化炭素分圧差(ΔpCO2)の分布。(a)2009年1月16日〜3月8日、(b)2009年4月22日〜5月10日、(c)2009年6月9日〜8月11日、(d)2009年10月30日〜11月23日

東経137度線の7N〜33Nで平均した海洋と大気中の二酸化炭素濃度の経年変化

東経137度線の7〜33°Nで平均した海洋と大気中の二酸化炭素濃度の経年変化(1984〜2009年)。

太平洋赤道域(南緯10〜北緯5度、東経135〜西経95度)における(a)月ごと、(b)年ごと及び(c)2009年の月ごとの正味の大気−海洋間の二酸化炭素交換量

太平洋赤道域(10°S〜5°N、135°E〜95°W)における(a)月ごと、(b)年ごと及び(c)2009年の月ごとの正味の大気−海洋間の二酸化炭素交換量。(b)の点線は平年値(1992〜2009年の平均)を、(c)の白線と青い陰影は、それぞれ平年値と標準偏差(±1σ)を表す。正の値は海洋が二酸化炭素を放出していることを示す。エルニーニョ期間を赤で、ラニーニャ期間を青で(a)に示している。1 PgCは炭素換算で10億トン。


メタン

  • 綾里、南鳥島と与那国島で観測された大気中のメタン濃度は、季節変化を繰り返しながら、長期的に見ると濃度が増加している。観測開始から2003年にかけて見られていた増加傾向は、2004年から2006年にかけて不明瞭となっていたが、2007年以降は再び増加しており、今後も注意深く見ていく必要がある。

  • WDCGGに報告された世界の大気中メタン観測データの解析によると、2009年の全球平均濃度は1803 ppbであり、2008年から5 ppb増加しており、産業革命以前の平均的な値である約715 ppbに比べて約2.5倍になっている。3年続けて濃度が大きく増加したが、メタンが増加に転じたかどうかははっきりしない。

  • 東経165度及び赤道上の表面海水中及び大気中のメタンの分圧差の分布を見ると、観測を実施したいずれの海域においても表面海水中のメタン分圧は、大気に比べて高く、これらの海域では海洋から大気へとメタンが放出されていた。


2009年のメタン濃度の観測結果。

2009年平均濃度
(ppb)
前年との濃度差
(ppb)
日本綾里1879 +3
南鳥島1822 +8
与那国島1852+11
世界1803 +5

綾里、南鳥島及び与那国島の大気中のメタン濃度月別値と、季節変動成分を除いた濃度の経年変化

綾里、南鳥島及び与那国島における大気中のメタン濃度の月別値と、季節変動成分を除いた濃度の経年変化。

緯度帯別の大気中のメタンの経年変化

緯度帯別の大気中のメタン濃度の3次元表現図(1984〜2009年)。


ハロカーボン類

  • 綾里でのハロカーボン類の観測によると、CFC-11濃度は1993〜1994年の約270 pptをピークとして緩やかに減少している。CFC-12濃度は2005年をピークに減少している。CFC-113濃度は2004年頃からごく緩やかな減少傾向が見られる。

  • WDCGGに報告された2009年までのハロカーボン類の濃度観測データによると、CFC-11は、北半球で1992〜1993年頃、南半球で1993〜1994年頃を境に、増加から緩やかな減少傾向に転じている。CFC-12は、1990年頃から増加率が低下し始め、現在ではほぼ変動のない状態となっている。CFC-113は、北半球では1993〜1994年頃、南半球では1997年前後を境として、緩やかな減少傾向に転じている。


2009年のハロカーボン類濃度の観測結果。

2009年平均濃度
(ppt)
前年との濃度差
(ppt)
綾里CFC-11244−2
CFC-12537−2
CFC-113 78+1
CH3CCl3 11−1
CCl4 98−5

綾里における大気中のCFC濃度の月別値
綾里における大気中のCFC濃度の月別値
綾里における大気中のCFC濃度の月別値

綾里における大気中のCFC-11、CFC-12及びCFC-113の濃度の月別値。


一酸化二窒素

  • 綾里で観測された、2009年の大気中一酸化二窒素の年平均濃度は322.7 ppbで、過去10年間の平均の濃度年増加量は0.7 ppb/年である。

  • WDCGGに報告されたデータから算出した一酸化二窒素の全球平均濃度は、2009年には322.5 ppbまで上昇し、産業革命以前に比べ19%増加している。濃度年増加量は過去10年間の平均で0.77 ppb/年である。


2009年の一酸化二窒素濃度の観測結果。

2009年平均濃度
(ppb)
前年との濃度差
(ppb)
綾里322.7−0.5
世界322.5+0.6

綾里における大気中の一酸化二窒素濃度の月別値の経年変化

綾里における大気中の一酸化二窒素濃度の月別値の経年変化。


一酸化炭素

  • 一酸化炭素濃度は、日本国内の各地点とも全期間通して見るとわずかな減少傾向があるようにも見えるが、年による濃度変動もあり、有意なものではない。

  • WDCGGの解析による2009年の一酸化炭素の全球平均濃度は約89 ppbである。季節変動成分を除いた濃度は北半球中緯度でもっとも高く、南半球では低い。濃度年増加量は、1992年から1993年にかけて一時的な減少、1997年から1998年にかけてと2002年から2003年にかけて一時的な増大が主に北半球で見られた。


2009年の一酸化炭素濃度の観測結果。

2009年平均濃度
(ppb)
前年との濃度差
(ppb)
日本綾里146(注)
南鳥島105−1
与那国島144(注)
世界約89−2


注:綾里と与那国島の観測装置はそれぞれ2009年1月、2008年1月に更新されており、新旧観測装置の間の補正方法は現在調査中。

綾里、南鳥島及び与那国島における大気中の一酸化炭素濃度の月別値と、季節変動成分を除いた濃度の経年変化

綾里、南鳥島及び与那国島における大気中の一酸化炭素濃度の月別値と、季節変動成分を除いた濃度の経年変化。 綾里の2009年1月、与那国島の2008年1月以降の観測値は、観測装置の更新に伴う新旧装置の間の補正係数を現在調査中のため、白抜きで示す。


対流圏オゾン

  • 綾里では 1990年以降、全体として緩やかな増加傾向が見られたが、その後は不明瞭になっている。与那国島では、有意な変化傾向は見られない。南鳥島では2007年以降、減少傾向が見られる。

  • 国内の地上オゾン濃度は、3地点とも夏季に濃度が低くなる季節変動が見られる。これは、夏季に卓越するオゾン濃度が低い海洋性気団による影響を強く受けるためと考えられる。オゾンゾンデによる対流圏オゾンの観測でも同様の季節変動が見られるが、つくばの地上付近では光化学的な生成によるとみられる濃度の上昇が春季から夏季に時折見られる。


2009年の地上オゾン濃度の観測結果。

2009年平均濃度
(ppb)
前年との濃度差
(ppb)
綾里41+2
南鳥島24−2
与那国島39+1

綾里、南鳥島及び与那国島における大気中の地上オゾン濃度の月別値と、季節変動成分を除いた濃度の経年変化

綾里、南鳥島及び与那国島における地上オゾン濃度の月別値と、季節変動成分を除いた濃度の経年変化。


オゾン層

  • 2009年の日本上空では、特に12月に国内4地点すべてでオゾン全量が多い日が継続した。一方、1月や2月を中心に、オゾン全量が少ない日が継続した地点があった。

  • オゾン全量は、札幌とつくばで1980年代から1990年代半ばにかけて減少したが、これ以降はほとんど変化がないか、緩やかな増加傾向が見られる。那覇では1990年代半ば以降緩やかな増加傾向が見られる。

  • 2009年の南極オゾンホールは、8月中旬に発生し、9月17日に2009年の最大の面積である2400万km2にまで発達した。最近10年間(2000年以降)でみると、3番目に規模が小さかった。12月1日にオゾンホールは消滅した。

  • オゾン全量の世界的な長期変化傾向をみると、北半球ではヨーロッパ北部から西シベリアにかけてのオゾンの減少が大きい。南半球では南米南方からアフリカ南方上空にかけて減少が大きく、オーストラリア南方から南太平洋上空ではそれと比較して減少率が小さい。


国内4地点上空におけるオゾン全量年平均値の変化

国内4地点(札幌、つくば、那覇、南鳥島)上空におけるオゾン全量年平均値の推移。

オゾンホールの面積の推移

オゾンホールの面積(オゾン全量が220 m atm-cm以下の領域)の推移。上:赤線は2009年、黒線は過去10年(1999〜2008年)の日別の最大値及び最小値を示す。下:1979年からの年最大値の経年変化。黒い横線は南極大陸の面積(約1400万km2)。

オゾン全量トレンドの全球分布

世界のオゾン全量長期変化傾向(2009年オゾン全量の1979年からの変化の割合(%))の分布。TOMS及びOMIのデータに対してEESCフィッティングを行っている。


紫外線

  • 2009年の紅斑紫外線量の日積算値は、札幌で7月にその月として過去最少の、つくばで4月にその月として過去最多の、那覇で1月、2月及び5月にその月として過去最多の値をそれぞれ記録した。

  • 紅斑紫外線年積算値の推移を見ると、札幌を除き統計的に有意ではない(有意水準5%)ものの、長期的には緩やかな増加傾向を示している。


国内3地点における紅斑紫外線量年積算値の変化

国内3地点(札幌、つくば、那覇)における紅斑紫外線量年積算値の推移。直線は全期間の長期的な傾向(回帰直線)を示す。


エーロゾル

  • 2009年に波長500nmのエーロゾル光学的厚さで最も大きな値を観測したのは、綾里で6月、南鳥島及び与那国島で3月であった。この時のエーロゾルの粒径分布の指標となるオングストローム指数は、いずれの観測所としても標準的な値であった。

  • 綾里のライダーによる2009年のエーロゾルの鉛直分布の観測によれば、成層圏において散乱比が大きい状態が、7月以降、8〜9月をピークに高度12〜19km付近などでみられ、月の経過とともに高度を下げ、散乱比を小さくしながら12月まで継続した。これについて、2009年6月に噴火した千島列島のサリチェフ火山噴火を起源とするエーロゾルの影響が指摘されている。


綾里、南鳥島、与那国島における波長500 nmのエーロゾル光学的厚さとオングストローム指数の月平均値の推移

綾里、南鳥島、与那国島における波長500 nmのエーロゾル光学的厚さ(AOD (500nm))とオングストローム指数(α)の観測結果(2009年)。AOD (500nm)の時別値を印で、αの時別値を印で表した。与那国島の2009年8月以降はサンフォトメータの障害による欠測である。


黄砂現象

  • 2009年の黄砂現象は、2月11日から13日に西日本中心に観測されたことに始まり、2月に合計7日観測され、3月に5日、4月と5月にそれぞれ2日観測された。また、10月に4日、12月にも2日観測され、10月として17年ぶり、12月として16年ぶりの観測となった。

  • 2009年の黄砂観測のべ日数は251日だった。黄砂観測のべ日数は、2000年以降、300日以上となる年が多い。ただし、年々の変動が大きく、長期的な傾向は必ずしも明瞭でない。


日本における年別黄砂観測のべ日数

国内観測地点(67地点)における年別黄砂観測のべ日数(1967〜2009年)。

直達日射量

  • 2009年の直達日射積算量(札幌、つくば、福岡、石垣島)は、4月、5月及び9月にそれぞれ3か所で平年より顕著に多かった。また、7月には札幌及び福岡で平年より顕著に少なかった。他の月はほぼ平年並であった。直達日射積算量の年平均値は、1990年頃から2002年頃にかけておよそ1.5 MJ/m2の増加が見られたが、その後は緩やかに減少している。

  • 2009年の大気混濁係数(札幌、つくば、福岡、石垣島)は、各地点共に一時期を除きほぼ平年並であった。大気混濁係数は、1991 年のピナトゥボ火山噴火の後に大規模な火山噴火はなく、1963年のアグン火山噴火以前のレベルで概ね推移している。


ホイスナー・デュボアの混濁係数の平均値の経年変化

ホイスナー・デュボアの混濁係数(月最小値)の平均値の経年変化(1960〜2009年)。全国4地点の観測値から算出。


降水・降下じん

  • 2009年の降水中の酸性度は、綾里がpH 4.7、南鳥島がpH 5.2であった。綾里では、1976年の観測開始直後はpH 5.0以上を記録したが、それ以降はpH 4.4からpH 5.0の間で推移している。南鳥島では、1996年から2002年までpH 5.5からpH 5.8の範囲で推移していたが、近年はpHが低下している。


日ごと降水中pHの頻度分布

日ごと降水中pHの頻度分布(2009年)。(a)は綾里、(b)は南鳥島。

綾里と南鳥島における降水中pHの年平均値の経年変化

綾里と南鳥島における降水中pHの年平均値の経年変化。


海洋汚染

  • 日本周辺海域で2009年に観測された浮遊汚染物質は7.6個/100kmで、2000年代に入ってからは増加傾向にあり、2009年は2004〜2007年の水準であった。

  • 日本周辺海域・北西太平洋で2009年に観測された重金属のうち、カドミウムの表面海水中の濃度は、夏季の東経165度線の北緯45度以北で76〜112 ng/kgの高い値が見られ、北海道南方でも冬季〜春季、秋季に高い値が見られた。2009年の北西太平洋における北緯30度以南の海面のカドミウムの平均濃度は1.8 ng/kgであり、1997年以降ほぼ同レベルで推移している。水銀の平均濃度は、表面海水中で4.2 ng/kg、1000 m深で4.8 ng/kgとなっており、1986年以降ほぼ同レベルで推移している。


浮遊汚染物質の経年変化

プラスチックなどの浮遊汚染物質の観測個数の経年変化(1977〜2009年)。

カドミウム濃度

表面海水中のカドミウム濃度(2009年)。(a)冬季、(b)春季、(c)夏季、(d)秋季。()内は深度1000 mの値。


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