気象庁では世界気象機関(WMO)が実施している全球大気監視(GAW)計画の一環として、地球規模の大気の汚染状況を示す降水の各種イオン濃度などの観測を実施している。降水試料の採取から分析までの処理及び分析値の品質管理については、WMO(2004)に準拠している。
降水の採取は綾里と南鳥島で日ごとに行い、月ごとに気象庁地球環境・海洋部海洋気象課に送付する。同課では送付された降水試料を分析し、品質管理を行った後に公表している。
品質管理は、測定した陽イオン(水素イオン、ナトリウムイオン、アンモニウムイオン、カリウムイオン、マグネシウムイオン、カルシウムイオン)の当量の合計と陰イオン(塩化物イオン、硝酸イオン、硫酸イオン)の当量の合計を比較するイオンバランス、及び測定した電気伝導度と水素イオン濃度(pH)及び各種イオン濃度から理論的に計算される電気伝導度を比較する伝導度バランスの合致する程度を元に行われる。イオンバランスと伝導度バランスの両方で基準値以内になった分析結果を公表している。
陽イオンと陰イオンの比較
Ion difference [%] = 100×(CE − AE) / (CE + AE)
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表 7.3.10.1 陽イオン、陰イオン当量重量。 |
| 陽イオン、陰イオン Anion / cation | 当量重量 Equivalent weight (g) |
|---|---|
| 塩化物イオン / Cl− | 35.45 |
| 硝酸イオン / NO3− | 62.01 |
| 硫酸イオン / SO42− | 48.03 |
| アンモニウムイオン / NH3+ | 18.04 |
| ナトリウムイオン / Na+ | 22.99 |
| カリウムイオン / K+ | 39.1 |
| マグネシウムイオン / Mg2+ | 12.15 |
| カルシウムイオン / Ca2+ | 20.04 |
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表7.3.10.2 必要とされるイオンバランスの基準値。 |
| 陽イオン+陰イオン Anion + cation (µeq / l) | Ion Difference 許容値 Tolerance (%) |
|---|---|
| ≤ 50 | ≤ ±60 |
| > 50 and ≤ 100 | ≤ ±30 |
| > 100 and ≤ 500 | ≤ ±15 |
| > 500 | ≤ ±10 |
伝導度の比較
Δk (%) = 100×[ (k − kmeas) / kmeas ]
kmeas: 測定された伝導度 (µS / cm)
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表7.3.10.3 理想溶液、25℃における1モル又は1当量当たりのイオン伝導度。 |
| イオン Ion | 1モル当たりのイオン伝導度 Molar ionic conductivity Λi0 (Scm2/mol) |
|---|---|
| 水素イオン / H+ | 349.7 |
| 塩化物イオン / Cl− | 76.3 |
| 硝酸イオン / NO3− | 71.4 |
| 硫酸イオン / SO42− | 160.0 |
| アンモニウムイオン / NH3+ | 73.5 |
| ナトリウムイオン / Na+ | 50.1 |
| カリウムイオン / K+ | 73.5 |
| マグネシウムイオン / Mg2+ | 106.0 |
| カルシウムイオン / Ca2+ | 119.0 |
| 重炭酸イオン / HCO3− | 44.5 |
|
表7.3.10.4 必要とされる伝導度バランスの基準値。 |
| 伝導度測定値 Measured conductivity (µS / cm) | 許容値 Tolerance Δk (%) |
|---|---|
| ≤ 5 | ≤ ±50 |
| > 5 and ≤ 30 | ≤ ±30 |
| > 30 | ≤ ±20 |
降水・降下じんの観測では高い分析技術が求められることから、GAW計画に参加している各機関の分析技術の維持・向上及び分析データの品質管理を目的として、降水の分析技術に関する国際比較が行われている。この国際比較の実施及び取りまとめは、WMO/GAW品質保証科学センターであるアメリカ地区品質保証科学センター(http://qasac-americas.org/)が担当している。
国際比較は1978年から毎年1回実施されてきたが、1999年12月のWMO/GAWの会議において、GAWの枠組では重金属の国際比較を実施しないこととする一方、降水のpH、各種イオンなどについては従来どおりGAWの品質保証科学センターが担当し、2001年以降は国際比較を年2回実施することとした。この変更に併せてGAW計画に参加している各機関の国際比較への参加が求められ、これに参加しない機関の降水・降下じんの観測データについてはGAWデータとして認めないこととした。気象庁は、GAWの品質保証科学センターが担当する降水のpH、各種イオンなどの国際比較に1983年(第6回)から参加している。
重金属の国際比較については、2000年1月よりヨーロッパ以外の国も含めて、ヨーロッパ監視・評価計画(Co-operative Programme for Monitoring and Evaluation of the Long-range Transmission of Air pollutants in Europe: EMEP)の枠組で実施することになった。EMEPは、国連ヨーロッパ経済委員会(UNECE)が推進している重金属や酸性雨などによる大気汚染や広域輸送の監視・評価を行っており、この国際比較の実施及び取りまとめをノルウェー大気研究所に設置されたEMEP化学調整センター(http://www.nilu.no/projects/ccc/index.html)が担当している。気象庁は、EMEPによる重金属の国際比較に第2回(2002年)から参加している。
降水の国際比較の手順は次のとおりである。アメリカ地区品質保証科学センターが、各成分を降水に近い濃度に調製した3種類の水溶液試料を参加各機関に濃度を伏せたまま配布し、各機関はそれらの試料を分析して結果を報告する。重金属の国際比較も同様に、ノルウェー大気研究所が、重金属を降水に近い濃度に調製した4種類の水溶液試料を参加各機関に濃度を伏せたまま配布し、各機関はそれらの試料を分析して結果を報告する。各機関が報告した分析値はそれぞれの国際比較担当機関で集計・評価が行われ、その結果が分析機関の実名入りで公表される。許容値から外れた分析値にはフラグが付けられ、この結果が各機関の分析能力の評価になる。気象庁では毎回許容値の範囲内の結果を出している。
温室効果ガスなどのGAW観測所 | 綾里 | 南鳥島 | 観測方法(降水・降下じん化学成分分析) | 参考文献