大気二酸化炭素濃度の観測には、二酸化炭素の赤外線吸収特性を利用した非分散型赤外分析計(NDIR)を用いている。各観測所で使用している測定器の型式を表7.1.1.2、表7.1.1.3及び表7.1.1.4に示し、観測装置の外観を図7.2.1.1に示す。この観測装置の安定性は、15分平均の標準偏差で0.02 ppm以下であり、再現性は上記の安定性の試験を2度行った際の差が±0.02 ppm以下である。
地上約20 mの高さにある取込口から取り込んだ大気試料を、露点が−75℃以下となるよう除湿した後、観測装置へ導入している。分析部への試料流量は毎分500 mlである。濃度の異なる4本(南鳥島)または5本(綾里及び与那国島)の空気ベースの観測用標準ガスを使用して、大気試料の濃度を求めている。これらの観測用標準ガスについては、観測所で使用を開始する前に、気象庁地球環境・海洋部環境気象管理官(以下、「環境気象管理官」とする)において二酸化炭素標準ガス濃度較正装置を用いて気象庁標準ガスと比較され、正確な濃度が決定されている。また、これらの標準ガスは充填圧約15 MPa(綾里は約12 MPa)にて使用を開始するが、ボンベ壁面からの不純物質遊離による濃度変化(濃度ドリフトを起こす)を避けるため、圧力が約3.5 MPa以下になる前に使用を中止する。通常使用期間はおおよそ4か月(南鳥島)または6か月(綾里及び与那国島)である。使用後の観測用標準ガスもまた、環境気象管理官において二酸化炭素標準ガス濃度較正装置を用いて気象庁の標準ガスとの比較が行われる。使用前と使用後の濃度を比較することにより、使用期間中の濃度ドリフトを精密に決定し、これに基づいて使用期間中の大気試料の濃度を補正している。
第7.3.1節で述べるように、気象庁の標準ガスは米国海洋大気庁地球システム調査研究所(NOAA/ESRL)の維持する世界気象機関(WMO)の標準ガスによって較正されているため、各観測所における観測濃度はWMO標準ガスを用いている各国の観測地点の濃度と直接比較することが可能である。
観測は、4本(または5本)の観測用標準ガスの濃度を6分(または3分)ずつ測定したのち、大気試料の二酸化炭素濃度を96分間(または105分間)測定するという、2時間の観測サイクルの繰り返しで実施される。観測用標準ガス及び大気試料の測定において、分析計の出力電圧を1秒間隔で読み取り、これを30秒間平均して出力値を求める。
これらの出力値を用いて環境気象管理官で濃度を算出している。観測用標準ガスの既知濃度と出力値から求めた2次式の検量線を観測サイクルごとに決定し、この検量線を用いて大気試料の出力値を濃度に換算する。分析計の応答が時間変化することによる誤差を最小にするため、1つの大気試料出力値について測定時刻前後の検量線を用いてそれぞれ求めた2つの濃度値を時間内挿して30秒ごとの濃度値を得ている。観測用標準ガスに濃度ドリフトが検出された場合には、そのドリフト量に応じて濃度値を補正している。
観測された濃度値には、数時間の間でも大きな変動がみられることがある。これは、気象状況によって生じる、接地境界層内の人間活動や植物活動などの影響と考えられる局地的な濃度変動である。広い水平空間を代表し、境界層内の平均的な濃度と考えることのできる大気のバックグランドデータを求めるためには、局地的な濃度変動を取り除いたデータを選び出す必要がある。局地的影響を受けた空気塊は、その空間規模が小さいため観測値の時間的変動が大きいと考えられる。信頼性の高いバックグランドデータを求めるためには、局地的影響を受けていないデータを選別する一方で、できるだけ多くのデータを選び出すことが望ましい。気象庁が行っているバックグランドデータ選別手順は以下のとおりである。
値A及び値Bは、観測所ごとに、過去の観測値を検証して局地的な影響を受けているとみられる濃度データを取り除きながら、バックグランドデータを数多く残すことができるように決められている。二酸化炭素の場合、これらの値は表7.2.1.1のとおりである。
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表7.2.1.1 二酸化炭素のバックグランドデータ選別しきい値。 |
| 観測所 Site |
期間 Period |
値A Standard deviation |
値B Continuity |
|---|---|---|---|
| 綾里 Ryori |
1987年1月 - January 1987 - |
0.6 ppm | 0.6 ppm |
| 南鳥島 Minamitorishima |
1993年3月 - March 1993 - |
0.3 ppm | 0.3 ppm |
| 与那国島 Yonagunijima |
1997年1月 - January 1997 - |
0.6 ppm | 0.3 ppm |
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図 7.2.1.1 大気二酸化炭素観測装置(与那国島)。 |
図7.2.1.2〜7.2.1.4は綾里、南鳥島及び与那国島の全ての時別値であり、バックグランドとして採用されたデータを赤で、それ以外を青で表示している。
1年間で得られた時別値のうちバックグランドとして選別されたデータの割合は綾里で40%、南鳥島で77%、与那国島では68%である。綾里では夏季に選別率が低下しているが、これは観測所周辺の植物活動が活発になるためと考えられる。
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図 7.2.1.2 綾里における大気中の二酸化炭素濃度時別値の時系列図(2009年)。 |
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図 7.2.1.3 南鳥島における大気中の二酸化炭素濃度時別値の時系列図(2009年)。 |
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図 7.2.1.4 与那国島における大気中の二酸化炭素濃度時別値の時系列図(2009年)。 |
温室効果ガスなどのGAW観測所 | 綾里 | 南鳥島 | 与那国島 | 較正(二酸化炭素) | 参考文献
日本における二酸化炭素濃度 | 世界の二酸化炭素濃度 | 二酸化炭素放出量の推定