降水中のナトリウムイオン(Na+)はそのほとんどすべてが海水飛沫による海塩粒子を起源とし、その濃度は降水への海塩の寄与の尺度となる。
図5.2.1と図5.2.2に、綾里と南鳥島のナトリウムイオンの降水中濃度と降水・降下じんによる降下量を示す。四方を海に囲まれた南鳥島ではナトリウムイオンの降水中濃度が綾里より大きく、降水・降下じんによる降下量も大きい。降下量については、綾里ではほぼ年間を通して降水による比率が大きいが、南鳥島では降下じんによる比率が大きい。綾里における10月の降下量の増大は、台風の影響で海塩粒子を多く含んだ降水が多量にあったためと考えられる。
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図5.2.1 日ごとと月平均の降水中ナトリウムイオン濃度(2009年)。月平均値は降水量の重みをかけた加重平均値。(a)は綾里、(b)は南鳥島。 |
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図5.2.2 月別降水(precipitation)・降下じん(dry deposition)によるナトリウムイオン降下量(2009年)。(a)は綾里、(b)は南鳥島。 |
硫酸イオン(SO42−)には、化石燃料の燃焼などの人為起源あるいは火山噴火による自然起源で放出される二酸化硫黄SO2が酸化した非海塩性のものと、海水飛沫などを起源とする海塩性のものがある。
綾里と南鳥島の硫酸イオンの降水中濃度を図5.2.3に、降水・降下じんによる降下量を海塩性と非海塩性に分けて図5.2.4に示す。綾里における硫酸イオンの降下量はそのほとんどが降水によるものであり、海塩性に比べ非海塩性の割合が高い。四方が海の南鳥島では海塩性の割合が高く、降水だけでなく降下じんによる降下量も比較的多い。
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図5.2.3 日ごとと月平均の降水中硫酸イオン濃度(2009年)。月平均値は降水量の重みをかけた加重平均値。(a)は綾里、(b)は南鳥島。 |
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図5.2.4 月別降水(precipitation)・降下じん(dry deposition)による海塩起源(ss)及び非海塩起源(nss)硫酸イオン降下量(SO42−-S)(2009年)。(a)は綾里、(b)は南鳥島。 |
硝酸イオン(NO3−)は、自動車などの排ガス中の窒素酸化物が酸化することで生じる。
図5.2.5と図5.2.6に、綾里と南鳥島の硝酸イオンの降水中濃度と降水・降下じんによる降下量を示す。綾里では南鳥島に比べ降水中濃度が大きく、日ごとの降水中濃度に大きな変動がみられる。降下量については、綾里ではほぼ降水によるものであった。
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図5.2.5 日ごとと月平均降水中硝酸イオン濃度(2009年)。月平均値は降水量の重みをかけた加重平均値。(a)は綾里、(b)は南鳥島。 |
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図5.2.6 月別降水(precipitation)・降下じん(dry deposition)による硝酸イオン降下量(NO3−-N)(2009年)。(a)は綾里、(b)は南鳥島。 |
観測結果から、綾里は人為起源の酸性物質の影響を強く受けていること、人為起源酸性物質の発生源から遠く離れた南鳥島においても酸性物質が少なからず輸送されことがわかる。Hara et al.(2004)も南鳥島の観測結果から、硝酸イオン濃度が他の海洋遠隔地での濃度とほぼ同一であるのに対して硫酸イオン濃度はやや高く、大陸の影響が示唆されることを指摘している。
綾里での降水・降下じんにおける、人間活動の影響で生じる非海塩起源の硫酸イオン降下量の経年変化を図5.2.7に示し、硝酸イオン降下量の経年変化を図5.2.8に示す。降水試料自動採取装置の故障により1986年の1月から8月まで欠測したため、この年の降下量は大幅に少ない。Seto et al.(2002)は、国内17か所の観測点の結果から、1989年から1998年の10年間に全地域で非海塩起源の硫酸イオンは減ったが、硝酸イオンは多くの地域ではっきりした傾向はみられなかったと報告している。しかし、綾里における非海塩起源の硫酸イオンには数年規模の変動がみられ、この期間のみの変化傾向をみることは難しい。また、硝酸イオンは1988年以降、それ以前に比べ高い状態が継続している。
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図5.2.7 綾里における降水(precipitation)・降下じん(dry deposition)による非海塩起源硫酸イオン降下量の経年変化。 |
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図5.2.8 綾里における降水(precipitation)・降下じん(dry deposition)による硝酸イオン降下量の経年変化。 |
南鳥島での降水・降下じんにおける、人間活動の影響で生じる非海塩起源の硫酸イオン降下量の経年変化を図5.2.9に示し、図5.2.10に硝酸イオン降下量の経年変化を示す。1997年に降水試料自動採取装置の故障による欠測があり、その降下量は少ない。また2002年の降下じんの非海塩性起源の硫酸イオンについては、付近での工事の影響により採取試料の信頼性が低いことから、図に掲載していない。硝酸イオンの降下量はほぼ同じ程度で推移しているが、降下じん中の硫酸イオンが2004年以降大幅に増加している。これは第5.1節で記述した火山噴火の影響を直接受けた可能性が大きいと考えられる。
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図5.2.9 南鳥島における降水(precipitation)・降下じん(dry deposition)による非海塩起源硫酸イオン降下量の経年変化。2002年の降下じんのデータについては、付近での工事の影響により採取試料の信頼性が低いため、掲載していない。 |
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図5.2.10 南鳥島における降水(precipitation)・降下じん(dry deposition)による硝酸イオン降下量の年平均値の経年変化。年平均値は降水量の重みをかけた加重平均値。 |