黄砂現象とは、アジア大陸の砂漠や半乾燥地帯の耕地等から細かい砂塵(黄砂粒子)が低気圧などによる強風によって上空数千メートルまで舞い上げられ、それが西風に乗って遠距離輸送された先で、降下したり大気を混濁させたりする現象である。黄砂粒子が舞い上がる場所としては、タクラマカン砂漠、ゴビ砂漠、黄土高原が知られている(Kai et al., 1998; Kurosaki and Mikami, 2003)。また、舞い上がった黄砂粒子は、場合によっては太平洋を越えてアメリカ合衆国やカナダにまで到達することが明らかにされている(Jaffe et al., 1999; McKendry et al., 2001)。Uchiyama et al.(2005)の光学的な観測によれば、日本上空に輸送されてくる黄砂粒子の有効半径(粒子の幾何学的断面で重み付けをした平均半径)は、1.6〜1.8 µmであり、一般的に1 µm以下が多い硫酸塩エーロゾルに比べて大きいのが特徴である。また、黄砂現象は春に多く起こることが知られているが、春以外の季節でも起こる。最近の研究によると、地上では視程が低下しないため黄砂として観測されないが、上空では薄い黄砂が夏にも存在していることがわかってきた。
黄砂発生源では、黄砂の原因となる大規模な砂塵嵐により人的被害を受けることがある。日本では、視程の悪化による交通障害、洗濯物や車両の汚れ等の影響がある。黄砂現象は、このような社会的影響だけでなく、日射の散乱・吸収及び赤外放射の吸収過程、雲の生成などを通して、世界の気候に影響を及ぼしている。黄砂粒子は日射を多少吸収して大気を加熱するが、同時に日射を散乱させる日傘効果により地表面に達する日射を減少させている。気象研究所の全球黄砂モデルによると、このような影響の結果として、世界の平均では、黄砂が大気中にない場合と比較して−0.3W/m2という弱い冷却効果を示すとされている。また、海洋に落下した黄砂粒子に含まれる化学成分は、海洋表層のプランクトンの栄養分となることなどを通して海洋の生態にも大きな影響を与えていると考えられている。
黄砂の観測で最も古くから行われているのは、気象台や測候所等の職員による目視観測である。大気中に黄砂が浮遊していて視程が10km未満となった場合や、視程が10km以上でも明らかに黄砂現象と判断した場合に「黄砂」を記録している。Tsutsumi et al.(2005)は、サンフォトメータを用いたエーロゾルの光学特性の観測で、黄砂現象について目視観測と対応する結果を示している。また、ライダーなどの新しい測器で上空の黄砂層の鉛直分布の検出も可能になってきている。
気象庁では黄砂に対する社会的な関心の高まりに伴い、2004年1月から黄砂に関する気象情報の発表を開始するとともに、気象庁ホームページで日本周辺における黄砂観測実況図と予測モデルによる黄砂予測図の提供を開始した。2008年2月からは予測モデルの精度向上を踏まえ、予測期間を3日先まで延長するとともに、予測される黄砂濃度による色分け表現を開始した。