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エーロゾルの気候への影響エーロゾルは、直接的には日射を散乱・吸収して地上に到達する日射量を減少させ、気温を低下させる日傘効果を持つ。一方で地球からの赤外放射を吸収・再放射するという温室効果も持っている。さらに、これらの直接的な効果の他に、雲粒の核となる微粒子(雲核)として雲の性状(雲粒の数や粒径分布、滞留時間)を変化させることにより、間接的に地球の放射収支を変えるという効果も持っている。ただし、対流圏に存在するエーロゾルは一般に寿命が短く、地上や海面からの放出量も変化が大きい。このため、エーロゾルの濃度は時間や地域によってかなり変動し、その分布と変動の把握は難しい。 IPCC(2007)では、モデルや観測から得られた、産業革命以来のエーロゾル量の変化による直接的な放射強制力の合計を−0.5 W/m2と見積もっている。その内訳は、硫酸塩エーロゾルが−0.4 W/m2、鉱物粒子が−0.1 W/m2、化石燃料起源の黒色炭素が+0.2 W/m2、バイオマス燃焼によるエーロゾルが+0.03 W/m2などである。一方、エーロゾルの間接的な効果は放射強制力にして−0.7 W/m2と見積もられているが、−1.8から−0.3 W/m2と大きな不確実性を持っている。 大規模な火山噴火は多量の火山ガスを成層圏に注入し、それが粒子変換によって硫酸塩エーロゾルとなり、長期間にわたって成層圏に留まる。成層圏の大量のエーロゾルは広範囲に長期間にわたって日射に影響を及ぼし、例えば1991年に噴火したピナトゥボ火山は、噴火後約2年間にわたって全球平均気温を0.1〜0.2℃低下させた(Robock and Mao, 1995)。 石炭やディーゼルエンジン、薪などの生物燃料、バイオマスバーニングなどの不完全燃焼から放出されるエーロゾルの黒色炭素(ブラックカーボン)は、太陽光を吸収し大気を暖めて温暖化を促進する。また、Zhao et al.(2006)は、中国東部で黒色炭素を主とするエーロゾル光学的厚さの増加が上空を暖めて対流を起こりにくくし、降水量が減少していることを示した。降水の減少はエーロゾルの寿命を延ばすため、さらにそれによる降水量の減少という、正のフィードバックの可能性も指摘している。Menon et al.(2002)は、モデル計算と実際の観測を比較して、過去数十年の中国における、南部での降雨増加、北部での干ばつの増加は、黒色炭素の増加と関係している可能性があることを指摘している。 Zhang et al.(2007)は、アジアからの大気汚染に含まれるエーロゾルやエーロゾル前駆物質(原料となる物質)が冬季に太平洋に吹き出して雲の成長に影響を及ぼし、北太平洋上で深い対流性の雲を増やす間接効果のため、ストームトラックと呼ばれる北太平洋の嵐を強化し、さらに全球の大気循環への影響についても指摘している。 また、エーロゾルは、気候だけでなく局所的には大気の質の悪化や酸性沈着(酸性雨)にも関与するとともに、黄砂のようにその地域の社会生活に著しい影響を及ぼす現象もある。 |
森林火災を起源とするエーロゾル森林火災を起源とするエーロゾルの煙は、直接的に日射をさえぎるだけでなく、雲の凝結核(雲粒を作るもと)を供給することにより雲量を増やし、その雲が日射を反射する間接効果も加わり、地球を寒冷化させる方向に働くと考えられている。シベリアに限らず、東南アジアや南米など世界各地で、森林火災は毎年かなりの頻度で発生しており、それらの煙は気候変動に充分影響を与えうる。Penner et al.(1992)によると、その影響の大きさは産業革命以降の放射強制力の変化として最大−2 W/m2に達すると見積もられている。Hobbs et al.(1997)は、全地球平均で−0.3 W/m2と計算しているが、これはIPCC(2007)によって見積もられた硫酸塩エーロゾルの効果に匹敵する。しかし、煙の中のすすは反対に日射を吸収することにより温暖化に寄与するため、まだ不確定な部分が大きい。 1998年夏季に、シベリアの森林火災からの煙粒子によると思われるエーロゾル光学的厚さの増大が、札幌の地上観測(Aoki and Fujiyoshi, 2003)やTOMS(Massie et al., 2004)によって観測された。2003年5月にはバイカル湖付近で大規模な森林火災が発生し(Nedelec et al., 2005)、その煙が日本へ流れ込んで北日本の日射量や日照時間が減少した(気象庁, 2005a)。大気環境観測所(岩手県大船渡市綾里)でもこの煙と考えられる、極めて大きなエーロゾル光学的厚さを観測している(第4.1.1節参照)。これが森林火災による影響であることは、同時に観測された一酸化炭素濃度の増大からも示唆される(第2.5.1節参照)。 また、炭素循環から見て、シベリアの森林火災は全球に大きな影響を与えている。シベリアは土壌炭素の最大の貯蔵庫の一つになっており、樹木の燃焼からだけでなく、土壌からも火災の規模に応じて炭素が放出される可能性がある(Soja et al., 2004)。亜寒帯からの炭素の放出量は、全球のバイオマス燃焼からの炭素放出量に対して、Kasischke and Bruhwiler(2003)は8.9%(1998年)、Soja et al.(2004)は5〜20%に達すると推定している。また、亜寒帯森林火災は、炭素や微量ガスを直ちに大気へ放出するだけでなく、火災後も7〜15年にわたって土壌生態系へ影響を与え続け、火災時と同程度の二酸化炭素を放出するという研究もある(O'Neill et al., 2003)。 |
火山噴火によるエーロゾル通常、対流圏のエーロゾルは発生から1〜2週間で雨により大気中から除去される。しかし、激しい火山噴火の場合、火山ガスが成層圏にまで達し硫酸塩エーロゾルに粒子変換されると、対流圏に降下して降水によって除去されるまでに1〜2年間を要するため、この間の気候に影響を与えることとなる。最も新しいところでは、1991年にフィリピンのピナトゥボ火山が噴火して、噴火後約2年間にわたって全球平均気温を0.1〜0.2℃低下させるなど(Robock and Mao, 1995)、気候に大きな影響を与えた。 近年、この百数十年間において、大規模火山噴火によりしばしば大気が数年にわたり混濁したことがわかってきた。IPCC第4次評価報告書では、気候モデルを使って過去140年にわたって、どの時期にどの程度大気が混濁したかを報告している(IPCC, 2007)。
図4.1.1 1860年から2000年までの火山噴火によって成層圏で生成された硫酸塩エーロゾルによる、推定された波長550 nmでの光学的厚さの推移(IPCC第4次評価報告書による)。 |
東アジアでのエーロゾル光学的厚さの特徴日本を含む東アジア地域では、化石燃料の燃焼ガスから生成される硫酸を主成分とするエーロゾル(硫酸塩エーロゾル)、化石燃料の燃焼時に直接放出されるすす、森林火災の煙粒子、黄砂に代表される砂塵、海面から生成される海塩粒子など多様なエーロゾルが混在している。これらは、それぞれ日射の反射特性や吸収特性が異なるため、その分布に応じて、気候に対して複雑な光学的影響をもたらしている。例えば春季に日本付近のエーロゾル光学的厚さが大きくなるのは、一般的には黄砂現象によるものと考えられているが、Takemura et al.(2003)は、春季に東アジアから輸送されてきた大気汚染物質が、日本付近で黄砂と同程度にエーロゾル光学的厚さに影響していることを示している。また、Tsutsumi et al.(2004; 2005)は、春季に与那国島でアジア大陸からの大気汚染や森林火災の煙の影響と考えられる大きなエーロゾル光学的厚さを観測している。 また、季節変動だけでなく、長期的な日本付近のエーロゾル光学的厚さの変動にも、アジア大陸からのエーロゾルが強く影響していることがわかってきている。例えば、Massie et al.(2004)は1979年から2000年までの衛星のTOMS(Total Ozone Mapping Spectrometer)によるエーロゾル解析から、冬季の中国沿岸平野部で10年間に17%の割合でエーロゾル光学的厚さが増加してきていることを指摘している。また、Sobajima et al.(2004)も、NOAA衛星による1988年から2001年までの観測データをもとに、日本海で10年間に500 nmのエーロゾル光学的厚さが0.06増加(注:数%に相当する)するなど、西太平洋域でエーロゾル光学的厚さが増加しつつあることを指摘している。 シベリアの森林火災の煙粒子によると考えられるエーロゾル光学的厚さの増大も、1998年の夏には札幌における地上からの光学的観測(Aoki and Fujiyoshi, 2003)やTOMS(Massie et al., 2004)によって、2003年5月には大気環境観測所(岩手県大船渡市綾里)のサンフォトメータによって観測されている(気象庁, 2005b)。 |
エーロゾルの大きさによる分類と環境基準エーロゾルはその種類によってさまざまな物理的・化学的性質を持っているが、そのような性質の中で粒子の大きさ(粒径)は最も重要な特性である。粒径は発生源や生成過程の違いに関係しており、ディーゼル排気粒子やすすといった化石燃料の燃焼による人為起源のものと海塩粒子や黄砂粒子のような自然起源のものに大きく分けられる。一般的に人為起源のものは粒径の小さなものが多い。また、粒径は人への健康影響にも大きくかかわっており、大きい粒子に比べ小さい粒子は有害な成分のものが多く、体の奥まで侵入して、長期間人体へ影響を及ぼすと考えられている。 大気汚染の分野で、粒子を大きさによって分類するときに良く使われるのが、SPM、PM10、PM2.5で、それぞれの定義は次のとおりである。
SPMは「浮遊粒子状物質」、PM2.5は「微小粒子状物質」と訳される。SPMは10 µm を超える粒子が100%カットされている粒子のことであり、SPMとPM10は異なる粒径をもっている。分類に含まれる最大の粒径を小さい順に並べると、PM2.5 < SPM < PM10 となる。 日本においては、昭和47年(1972年)にSPMの環境基準が設定され、その削減に係る各種対策が進められ、近年では大気環境測定局のうち、9割前後の測定局でこの環境基準が達成されている。一方、近年、PM2.5の健康影響を示す科学的知見が蓄積され、平成21年(2009年)にその環境基準が設定され、その削減に向けた具体的な対策が検討され始めた。 |
日本におけるエーロゾル光学的厚さ | 昭和基地におけるエーロゾル光学的厚さ | エーロゾル鉛直分布
温室効果ガスなどのGAW観測所 | 観測方法(エーロゾル光学的厚さ) | 観測方法(エーロゾル鉛直分布) | 較正(エーロゾル光学的厚さ)