大気環境観測所のライダーで測定した観測データのうち、雲が存在しなかった夜間の観測データを用いて、エーロゾルの状況について調べた。なお、第7.2.12節で示す観測時間帯のうち昼の観測については、夜間観測と比較して信号の品質が非常に悪いため、平均値算出等には用いていない。
2009年の観測データを用いて、散乱比の鉛直分布の月別平均値を求めた。図4.1.3.1に、晴天時の散乱比の鉛直分布の月別平均値とその平均に使用したデータの個数を示す。
全体的に対流圏は成層圏に比べて散乱比が大きく、エーロゾル濃度が高いことがわかる。月別に見ると、対流圏中層では3〜5月に散乱比が大きかったが、対流圏下層では6月に大きかった。7月以降は、8〜9月をピークに高度12〜19km付近の成層圏で散乱比が大きかった。9月は高度22kmにおいても散乱比の極大が見られた。成層圏において散乱比が大きい状態は、月の経過と共に高度を下げ、散乱比を小さくしながら12月まで継続した。これについて、内野ほか(2010)は、2009年6月に噴火した千島列島のサリチェフ火山噴火を起源とするエーロゾルの影響を指摘している。
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図4.1.3.1 2009年における散乱比鉛直分布の月別平均値(夜間のデータのみ)。 |
2002年3月から2009年12月までの観測データを用いて、散乱比の高度別の月別平均値を求めた。図4.1.3.2はそれぞれ高度1.5、3、5、7、10、15、20kmについて、散乱比の月平均値を年別に示したものである。
高度1.5kmでは、3〜6月及び7〜8月の年2回散乱比の極大が現れる傾向がある。
3〜6月に現れる極大は高度10kmまで続いているが、値は高度が高くなるほど小さくなっている。また、高度により極大が現れる月に違いがあり、高度1.5kmでは3〜6月頃に現れる傾向があるのに対して、高度10kmでは5〜6月頃に現れる傾向がある。
高度1.5kmで7〜8月頃に見られる極大は、3〜6月の極大に比べて値が小さい。これは高度3kmまでは続いているが、高度5km以上になるとほとんど見られない。
高度15kmでは、2008年10月から2009年2月まで、及び2009年7月以降が他の年に比べて大きくなっている。前者は2008年8月のアリューシャン列島のカサトチ火山、後者は2009年6月の千島列島のサリチェフ火山の噴火の影響が現われたものと考えられる。高度20kmでは、それより下層に比べて顕著な季節変化は現れていない。
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図4.1.3.2 散乱比の高度別の月平均値(2002年3月〜2009年12月)。下段より上に向かって、高度1.5km、3km、5km、7km、10km、15km、20km。 |
図4.1.3.3に、2002年3月から2009年11月までの観測データを用いたエーロゾル消散係数の鉛直分布について、季節別の平均値を示す。
春(3〜5月)は11km以下のほとんどの高度で、他の季節に比べてエーロゾル消散係数が大きい傾向がある。夏(6〜8月)は、高度13km以下で、秋(9〜11月)または冬(12〜2月)に比べてエーロゾル消散係数が大きかった。秋と冬は、高度13km以下では、ほぼ同じようなエーロゾル消散係数であったが、高度13kmから19kmは秋の方がやや大きなエーロゾル消散係数となった。高度19km以上については、エーロゾル消散係数は季節によらずほぼ同じ傾向を示した。
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図4.1.3.3 エーロゾル消散係数の鉛直分布の季節別平均値(2002年3月から2009年11月) 。 |
高度13〜19kmにおいて秋のエーロゾル消散係数が他の季節よりも大きかったのは、前節に記述した火山噴火に伴うエーロゾルの増加の影響であると考えられる。大規模な火山噴火が起こると、成層圏に大量にエーロゾルが注入されることがある。成層圏にいったん入ったエーロゾルの滞留期間は数年にも及ぶといわれ、日射の減少を通して、気候の変化に少なからず影響を及ぼす。1991年のピナトゥボ火山噴火による成層圏エーロゾルの変動や気候への影響については、気象庁(1994)にまとめられている。大気環境観測所でのライダーによる成層圏エーロゾルの定常的な観測体制は、そのような現象を監視する上でも有効な手段となり得るものである。
Matsuki et al.(2003)によると、航空機観測、ライダー観測や等温位面上の流跡線解析から、夏季の日本上空でも黄砂の存在が確認された。夏季において地表から高度13km付近にかけてエーロゾル消散係数が秋や冬よりも大きいのは、夏に日本の上空に飛来していた黄砂を捉えている可能性が考えられる。
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