エーロゾル及び大気混濁度に関する話題

4. エーロゾル及び大気混濁度

エーロゾル及び大気混濁度に関する話題

エーロゾルの気候への影響

 エーロゾルは、直接的には、日射を散乱・吸収して地上に到達する日射量を減少させ、気温を低下させる日傘効果を持つ。一方で地球からの赤外放射を吸収・再放射するという温室効果も持っている。さらに、これらの直接的な効果の他に、雲粒の核となる微粒子(雲核)として雲の性状(雲粒の数や粒径分布や滞留時間)を変化させることにより、間接的に地球の放射収支を変えるという効果も持っている。対流圏中のエーロゾルは一般に寿命が短く、地上や海面からの放出量も変化が大きいので、その濃度は時間や地域によってかなり変動する。そのため、その分布と変動の把握は難しい。
 IPCC(2007)では、モデルや観測から得られた、産業革命以来のエーロゾル量の変化による直接的な放射強制力の合計を–0.5 W/m2と見積もっている。このうち、硫酸塩エーロゾルでは–0.4 W/m2、鉱物粒子では–0.1 W/m2、化石燃料起源の黒色炭素は+0.2 W/m2、バイオマス燃焼によるエーロゾルでは、+0.03 W/m2などと見積もっている。一方、エーロゾルの間接的な効果は放射強制力にして–0.7 W/m2と見積もられているが、–1.8から–0.3 W/m2と広い不確定性を持っている。
 さらに、大規模な火山噴火は多量の二酸化硫黄を成層圏に注入し、そこで硫酸塩エーロゾルの発生を引き起こす。成層圏での大量のエーロゾルは広範囲な領域に対して長期間にわたって日射に影響を及ぼすことがある。例えば1991年に噴火したピナトゥボ火山は、噴火後約2年間にわたって全球平均気温を0.1〜0.2℃低下させた(Robock and Mao, 1995)。
 エーロゾルの間接的な効果が気候に影響を及ぼす例として、Zhang et al.(2007)によると、アジアからの大気汚染に含まれるエーロゾルやエーロゾル前駆物質(原料となる物質)が、冬季に太平洋に吹き出して雲の成長に影響を及ぼし、北太平洋上で深い対流性の雲を増やすため、ストームトラックと呼ばれる北太平洋の嵐を強化していることがわかった。また、彼らはこれが全球の大気循環にも影響を及ぼしているようだと指摘している。
 また、気候だけでなく、局所的には、大気の質の悪化や酸性沈着(酸性雨)にも関与するとともに、黄砂のようにその地域の社会生活に著しい影響を及ぼすものもある。

ブラックカーボンの気候への影響

 エーロゾルの多くは太陽光を反射・散乱し、直接的には大気を冷却する効果を持つ一方で、ブラックカーボン(黒色炭素)と呼ばれるすすの一種のエーロゾルは、太陽光を吸収し大気を暖めて温暖化を促進する。このブラックカーボンは石炭やディーゼルエンジン、薪などの生物燃料、バイオマスバーニングなどの不完全燃焼から放出される。中国は、それらの燃料が広く使われるとともに、その燃焼温度が比較的低いため、ブラックカーボンの放出が特に多いとされている(Streets et al., 2001)。
 ブラックカーボンの特徴は、太陽光の吸収により直接大気を暖めるだけではなく、大気を暖めた結果、大気の鉛直気温分布や水蒸気、潜熱フラックス、鉛直対流の強さなどに影響する(Wang, 2004)。このため、ブラックカーボンはこれらの変動を通して、大気の大循環や降雨のパターンを変える恐れがある。Menon et al.(2002)は、モデルを使った計算と実際の観測を比較して、過去数十年の中国における、南部での降雨増加、北部での干ばつの増加は、ブラックカーボン増加との関連の可能性があることを指摘している。
 WMOでは、国連環境計画(UNEP)などと協力してAtmospheric Brown Cloud(ABC)プロジェクト(http://www-abc-asia.ucsd.edu/)を立ち上げ、この影響の把握に努めている。日本でも気象庁気象研究所をはじめとして、大学、研究機関がこのプロジェクトに参加している。今後も引き続き、気候に影響する要因の一つとして、エーロゾルに注意を払っていく必要がある。

東アジアでのエーロゾル光学的厚さの特徴

 日本を含む東アジア地域では、海塩粒子のような自然起源のエーロゾルに加えて、化石燃料の燃焼ガスから生成される硫酸を主成分とするエーロゾル(硫酸塩エーロゾル)、化石燃料の燃焼時に直接放出されるすす、森林火災からの煙粒子、黄砂に代表される砂塵など多様なエーロゾルが混在している。これらは、それぞれ日射の反射や吸収特性が異なるため、その分布状況に応じて、気候に対して複雑な光学的な特徴をもたらしている。例えば春季に日本付近のエーロゾル光学的厚さが大きくなるのは、一般的には黄砂現象によるものと考えられている。しかし、Takemura et al.(2003)は、春季に東アジアから輸送されてきた大気汚染が、日本付近で黄砂と同程度にエーロゾル光学的厚さに影響していることを示している。また、Tsutsumi et al.(2004; 2005)は、春季に与那国島でアジア大陸からの大気汚染や森林火災の煙とみられる大きなエーロゾル光学的厚さを観測している。
 また、季節変動だけでなく、長期的な日本付近のエーロゾル光学的厚さの変動にも、アジア大陸が強く影響していることがわかってきている。例えば、Massie et al.(2004)はTOMS(Total Ozone Mapping Spectrometer)によるエーロゾル解析から、冬季の中国沿岸平野部で10年間で17%の割合でエーロゾル光学的厚さが増加してきていることを指摘している。また、Sobajima et al.(2004)も、NOAA衛星による1988年から2001年までの観測データをもとに、日本海で10年間に500 nmのエーロゾル光学的厚さ0.06増加するなど、西太平洋域でエーロゾル光学的厚さが増加しつつあることを指摘している。
 一方、1998年夏季に、シベリアの森林火災からの煙粒子によると思われるエーロゾル光学的厚さの増大が、札幌の地上観測(Aoki and Fujiyoshi, 2003)やTOMS(Massie et al., 2004)によって観測されている。気象庁においても、大気環境観測所(岩手県大船渡市綾里)で2003年5月にシベリアの森林火災の煙と考えられる、極めて大きなエーロゾル光学的厚さを観測した。(気象庁, 2005b)
 オングストローム指数(α)は上空に存在しているエーロゾル粒子の粒径の指標となる。一般的には、αが小さいほど粒径が大きな粒子、大きいほど粒径が小さな粒子が卓越していることを示す。例えば典型的な黄砂のような大きな粒子の場合は、0.5以下(Tanaka et al., 1989; 鈴木ほか, 2001; Uchiyama et al., 2005)であり、大気汚染や森林火災の煙による比較的小さな粒子の場合は、1.5〜2程度になることが知られている(Moulin et al., 1997; Eck et al., 2003)。

エーロゾルと地域的な気候との関連

 基礎知識の「エーロゾルの気候への影響」でも述べたように、エーロゾルは地球の放射に影響する。これが地域的な気候にも影響していることがわかってきている。Zhao et al.(2006)は、中国東部において、エーロゾル光学的厚さの増大とともに、降水量が減少していることを示した。中国東部では主なエーロゾルの一つとしてこの後に述べるようにブラックカーボン(すす)があり、これは日射を吸収するため、エーロゾルの増加は上空を暖めて対流が起こりにくくする(大気の安定度を高める)。Zhao et al.(2006)は、実際にエーロゾル光学的厚さの増加とともに大気の安定度が増大してきていることを示して、雲や降雨をもたらす上昇流の抑制を示唆している。また、降雨の減少はエーロゾルの寿命を延ばすため、さらにそれによる降水量の減少という、正のフィードバックの可能性も指摘している。

直達日射計によるエーロゾル光学的厚さの算出

 第4.4節に記述するように直達日射量から計算される大気混濁係数は、大気中のエーロゾル、オゾン、二酸化炭素、水蒸気などによる日射の減衰をあらわしており、エーロゾルだけの影響は、そのままではわからない。しかし、直達日射量に大きな影響を及ぼす水蒸気やオゾンなどの影響を分けて評価できれば、それらを除外することによって、エーロゾルの影響(エーロゾルの光学的特性)を評価することができる。Hashimoto et al.(2006)は可降水量とオゾン全量からそれらの影響を取り除くことによって、直達日射量からおおよそエーロゾルのみの影響だけを評価することを可能にした。直達日射計は全国に展開されているため、これによって、地域的なエーロゾルの把握が可能になった。この成果は気象庁の紫外線情報において、地域別なエーロゾルの影響を考慮した紫外線量の算出などに利用されている。

黄砂現象とその社会的影響

 黄砂現象の影響として、北東アジア地域の発生域周辺では砂塵嵐による農業生産や生活環境への被害が拡大している。例えば中国では、1993年5月の黄砂の砂塵嵐で85名の死者と12万頭の家畜が被害を受け、その総損害額は5.6億元に上っている(黄砂問題検討会, 2005)。また、韓国でも2002年の黄砂現象では学校が休校になったり、精密機械工場が操業停止になるなど社会的に大きな影響が出た。日本では、これまで人的な被害は報告されていないが、視程悪化により交通機関に影響が出たことがある。
 従来黄砂は、砂漠等から発生する自然現象であると理解されていたが、近年の黄砂の大規模化は中国大陸内陸部における過放牧や耕地の拡大等の人為的要因によるとの指摘もあり、何らかの対策が必要となっている。そのため2003年から、日本、中国、韓国、モンゴル政府の協力の下、地球環境ファシリティ(GEF)とADB(アジア開発銀行)による「北東アジアにおける黄砂の防止と抑制」プロジェクトが実施され、黄砂のモニタリングと早期警戒ネットワークの確立及び発生源対策強化を促進するマスタープランが作成された。2006年12月の第8回日中韓三カ国環境大臣会合(TEMM)でもその重要性が認識されている。

黄砂現象の気候への影響

 黄砂現象は、このような社会的影響だけでなく、日射の散乱・吸収及び赤外放射の吸収過程、雲の生成などを通して、全球の気候に影響を及ぼしている。気象研究所の全球黄砂モデル(Tanaka et al., 2005)によると、黄砂粒子は日射に対して弱い吸収特性を示すため大気を加熱するが、同時に日射を散乱させる日傘効果により地表面に達する日射を減少させている。結果として、全球平均すると、黄砂が大気中にない場合と比較して、−0.3 W/m2という弱い冷却効果を示している(気象庁, 2005b)。さらに、海洋に落下した黄砂粒子の化学成分は、海洋表層のプランクトンなどを通して海洋の生態にも大きな影響を与えていると考えられている(「黄砂現象に関する最近の知見」参照)。

気候による黄砂現象の変動

 黄砂現象に関する長期的なモニタリングとしては、気象観測による検出が有効なデータとなっている。全ほか(2002)は、韓国における気象観測データを調べて、過去約100年間の黄砂観測日数の変化を明らかにして、黄砂現象が1940年代に大きく増加した後減少し、最近になって再び増えてきていることを示した。
 それらの変動を気候や気候指数との関係から調べる試みも行われている。Ding et al.(2005)は、黄砂現象が1980年中期以降に大きく減少したのは、モンゴル高原と中央シベリア上空に平均して現れた高気圧性の定在波による中国西部での南風が、黄砂を引き起こす北西風を弱めたことと北西中国での降雨の増加によることを示している。Gong et al.(2006)の1960〜2003年間の解析によると、逆に気候が次のように黄砂現象に影響を及ぼしているとしている。エルニーニョ年には、中国での砂塵嵐とダスト量が減少するとともに、多くのダストエーロゾルは、北中国西部の砂漠とモンゴルの砂漠を起源とし、黄砂が太平洋を横断する経路が北へ移動する。一方、ラニーニャ年には、北中国の中央・東部の砂漠が、対流圏中にダストエーロゾルを提供している。さらに、Hara et al.(2006)は1972–2004年のモデル解析から、3月のアジアの中高緯度のジオポテンシャル高度偏差(APMI)が、中緯度の方が極域よりも偏差が低いパターン、つまり極域から中緯度への寒気の吹き出しが強い状態にあると、3月のダストの発生量が増加することを示すとともに、4月はAPMIのパターンではなく、むしろゴビ砂漠上空の気圧の南北緯度勾配がダスト発生量と関係していることを示している。
 黄砂は春に多く起こることが知られているが、秋に起こることもある。しかし、最近の研究によると、薄くではあるが持続的に夏季にも発生していることがわかってきた(Matsuki et al., 2003)。しかし、その舞上がりや輸送のメカニズムは不明な点が多い。そのため、気象研究所では平成12年度より5年計画で、中国と共同で大学や他の研究所の協力の下、Aeolian Dust Experiment on Climate impact(ADEC)プロジェクトを文部科学省科学振興調整費により実施した(三上, 2007)。その結果、中国での強風の発生頻度と黄砂の発生頻度に良い相関があること(Kurosaki and Mikami, 2003)、黄砂を含む砂塵による全球の放射強制力は、砂塵がない場合と比べて、0.3 W/m2低くなる(冷却される)こと(気象庁, 2005a)などがわかってきている。

黄砂現象と生態系

 また、黄砂を初めとする風送ダストは日射を通して気候に影響するだけでなく、第2.1節の最近の知見でも述べたように、土壌中の鉄分などの微量栄養素を海に運ぶことによって海洋生態系を変え、それによって気候にも重大な影響を及ぼすことがことがわかってきた。海洋中の植物プランクトンの生産や活動を制限している微量栄養素のひとつに鉄分があるが、通常は鉄分の海洋への補給は沿岸に限られている。しかし、東アジアでは、黄砂が大気汚染物質である二酸化硫黄と混合すると、鉄が水分に溶けやすいpHになるため、黄砂に付着してその長距離輸送にともなって北太平洋の鉄分が不足している地域に、鉄を供給している可能性がある(Meskhidze, et al., 2005)。彼らは、実際に黄砂現象のあとに、北太平洋上でクロロフィルの増殖を衛星から確認している。ただし、この輸送メカニズムは黄砂現象の規模が大きすぎると、二酸化硫黄より黄砂中の炭酸カルシウムの増大によるpHの上昇のため効果が薄れるとも指摘しており、また用いたモデルや化学プロセスの限界からも不確定さがあると述べている。また、北太平洋だけでなく、日本海でも雨を伴った黄砂現象があると、植物プランクトンの繁殖が例年より早く始まることが、衛星観測によりわかっている(Jo et al., 2007)。このように鉄分を含む風送ダストの海洋への輸送は、地球規模で広く海洋生物圏や地球化学への影響を与えていることが明らかになっている(Jickells et al., 2005)。さらに気候への影響も懸念されているが、その関係は複雑であり、もっと地球全体にわたる包括的な研究が必要である。  さらに、第5章で記述するように、黄砂に含まれるカルシウムなどは、東アジアの酸性雨(酸性沈着)を緩和しているとも推定されている。

過去の火山噴火による世界の大気混濁度の変動について

 エーロゾルは通常、1〜2週間で雨により大気中から除去されるが、激しい火山噴火によって、最も高い雲のさらに上まで火山ガスが吹き上げられた場合、火山ガスはエーロゾルへと転化し、対流圏に下りて、降水によって地表面に落とされるまでの1〜2年の間、気候に影響を与える。最も新しいところでは、1991年にフィリピンのピナトゥボ火山が噴火して、気候に大きな影響を及ぼした(第4章、地球環境に関するエーロゾルと大気混濁度の基礎知識を参照)。近年、この百数十年間において、大規模火山噴火によりしばしば大気が数年にわたり混濁したことがわかってきた。IPCC第4次評価報告書では、気候モデルを使って過去140年にわたって、どの時期にどの程度大気が混濁したのかを報告している(IPCC, 2007)。

1860年から2000年までの火山噴火によって成層圏で生成された硫酸エーロゾルによる推定された波長550 nmでの光学的厚さの推移

図4.1 1860年から2000年までの火山噴火によって成層圏で生成された硫酸エーロゾルによる推定された波長550 nmでの光学的厚さの推移(IPCC第4次評価報告書による)。
Fig. 4.1 Time series of optical depth at 550 nm associated with stratospheric sulphate aerosols formed in the explosive volcanic eruptions that occurred between 1860 and 2000 (from IPCC, 2007).


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エーロゾル光学的厚さ | エーロゾル鉛直分布 | 黄砂現象 | 直達日射量 | 大気混濁係数