時別値を一月にわたって平均したものを月別値とし、これを12個平均したものを年平均濃度としている。
表2.6.1.1に、綾里、南鳥島及び与那国島での2009年の年平均濃度、前年との濃度差及び季節による濃度差を示す。
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表2.6.1.1 綾里、南鳥島及び与那国島における2009年の地上オゾン濃度の観測結果。季節による濃度差は、月平均濃度が最大であった月の濃度と最小であった月の濃度の差を示す。 |
| 2009年平均濃度 Annual mean concentration in 2009 (ppb) | 前年との濃度差 Growth from 2008 (ppb) | 季節による濃度差 In-year variation (ppb) |
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|---|---|---|---|
| 綾里 Ryori | 41 | +2 | 29 |
| 南鳥島 Minamitorishima | 24 | −2 | 31 |
| 与那国島 Yonagunijima | 39 | +1 | 39 |
図2.6.1.1〜2.6.1.3に、綾里、南鳥島及び与那国島で観測された2009年の大気中の地上オゾンの月別濃度と参照濃度(第8.1節参照)を示す。
濃度月別値と参照濃度の差の標準偏差を考慮しつつ両者を比較すると、綾里では観測された濃度は4、6、7月に高く8、11月に低かった。南鳥島では5、7月に高く2、4、9月に低かった。与那国島では4、5月に高く1、2、11月に低かった。
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図2.6.1.2 南鳥島における大気中の月別地上オゾン濃度の時系列図(2009年)。実線は2009年の濃度の月別値、点線は参照濃度(第8.1節参照)。参照濃度の誤差範囲は±1σ(濃度月別値と参照濃度の差の標準偏差)を示す。 |
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図2.6.1.3 与那国島における大気中の月別地上オゾン濃度の時系列図(2009年)。実線は2009年の濃度の月別値、点線は参照濃度(第8.1節参照)。参照濃度の誤差範囲は±1σ(濃度月別値と参照濃度の差の標準偏差)を示す。 |
各月の濃度月別値と参照濃度の差の標準偏差から判断すると、綾里では夏季に年々の変動が大きく、他の季節は比較的安定している。南鳥島及び与那国島では、春季と秋季が比較的年々変動が大きく、夏季と冬季に比較的変動が小さいという特徴がみられる。
観測濃度と参照濃度の差が大きくなる要因として、観測所に到来する気団そのものの変動と気団の到来頻度の変化が考えられる。たとえば、図7.1.1.24の到来した気団の通過地域を見ると、南鳥島の4(5)月の低(高)濃度は、例年より大陸起源の気団の到来頻度が低(高)かったことと関連していると思われる。
オゾンの濃度変動は、第2.2.1節のメタンや第2.5.1節の一酸化炭素の濃度変動と共通していることが多い。例えば、南鳥島の4月のオゾンと一酸化炭素の低濃度などである。図7.1.1.24の到来した気団の通過地域を見ると、高濃度のときは大陸起源の気団の移流が平年より多く、低濃度のときは平年より少なくなっていることが多い。
地上付近のオゾンは、寿命が短いうえに主に光化学反応により生成されるため、一酸化炭素や炭化水素類、窒素酸化物などのオゾンの原料となる前駆物質を含む空気塊の輸送による影響を強く受ける。このため、その季節変動は日射の強度と風系すなわち気象状態に依存する。冬季は光化学反応が弱いために、一酸化炭素などのオゾン前駆物質から光化学反応によってオゾンが十分に生成される前に観測点に到達することが多い。一方、春季や秋季に相対的に一酸化炭素濃度が低くなりオゾン濃度が高くなるのは、活発な光化学反応によって一酸化炭素がオゾンに変化するためと考えられる。
日本でのオゾン濃度の平均した季節変動の特徴として、南鳥島では冬季に濃度が増大し夏季に減少する「ひと山型」であるのに対し、綾里及び与那国島では春と秋の二回に濃度の増大がみられ、夏季に減少する「ふた山型」であることが挙げられる。この特徴をもたらしている要因として、綾里及び与那国島は、本来夏季に最も濃度が高くなる大陸都市域に似た季節変動の傾向をもつとも考えられるが、実際には真夏にアジア東部が清浄な海洋性気団に覆われるため、濃度が減少してふた山型になると考えられる。
Tanimoto et al.(2005)は地上観測のデータから、日本での濃度月別値の最大値の発現時期について、低緯度では3月、高緯度では4月であるが、中緯度では5月になることを示している。これはアジア大陸東部を起源とする高濃度オゾンの日本付近への流入が、季節による風のパターンに影響されるためとしている。また、Yamaji et al.(2006)は、2002年のモデルと観測値の解析から、日本付近では春季のピークが2つあり、最初のピーク(3〜4月)は東アジア域の外から流入するオゾンの影響を受け、後のピーク(5〜6月)は、東アジア域で光化学生成されたオゾンの影響を受けることを示している。アジア大陸のWaliguan山(中国青海省、標高3816 m)では、夏季にオゾン濃度が最大であり、これは、成層圏のオゾンが夏季に頻繁に流入するためである(Ding and Wang, 2006)。このように、オゾン濃度の季節変動は、気象条件に依存するとともに地域によって大きく異なる。
各観測所において異なった季節変動がみられる要因として、季節によって卓越する風系が変わる(濃度変動に影響を及ぼす空気塊が変わる)ことや、それぞれの風系の空気塊の中で生じている光化学的な生成及び消滅が考えられる。気象庁(2003)では、与那国島の地上オゾンとオゾン前駆物質の一つである一酸化炭素の濃度比を水蒸気混合比ごとに分けて、その関係を調べた。その結果、一酸化炭素濃度に対する地上オゾン濃度の比(ΔO3/ΔCO)が夏季に大きくなるとともに、水蒸気混合比の小さい大陸性気団では小さく、水蒸気混合比の大きい海洋性気団では大きくなることがわかった。大陸性気団での値は、Chan et al.(2002)の香港での値とほぼ一致した。
時別値を一月にわたって平均したものを月別値とし、これを用いて大気中の地上オゾン濃度の長期変動及び季節変動に関する以下の解析を行った。解析手法の詳細については第8.1節に記載してある。
図2.6.1.4に、綾里、南鳥島及び与那国島で観測された大気中の地上オゾン濃度月別値の変動と、季節変動成分を除いた濃度変動(長期変動成分)を示す。与那国島は、ほぼ同緯度にある南鳥島と比べて濃度が高く、季節変動成分を除いた濃度は綾里に近い。綾里では1990年の観測開始以降2003年頃までは増加傾向がみられたが、その後は不明瞭になっている。与那国島では、有意な変化傾向は見られない。南鳥島では2007年以降、減少傾向が見られる。
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図2.6.1.4 綾里、南鳥島及び与那国島における地上オゾン濃度の月別値と、第8.1節の方法によって季節変動成分を除いた濃度の経年変化。 |
綾里、南鳥島及び与那国島の濃度には差がみられ、夏季を除いて綾里より与那国島の濃度の方が高くなることが多いが、季節変動成分を除いた変動では与那国島の濃度が綾里をほぼ上回っている。一方、ほぼ同緯度に位置する南鳥島と与那国島の濃度にも明らかな差がみられ、与那国島の濃度が南鳥島より著しく高い。これは、第7.1.1節の空気塊の地域通過図から、与那国島ではアジア大陸の高濃度オゾンの流入頻度が大きいことが影響していると考えられる。
綾里における地上オゾン濃度増加の原因として、日本国内だけでなく、1980年代から経済発展の急速な中国や韓国で放出される窒素酸化物やオゾン前駆物質の増加の影響が考えられる(気象庁, 1999)。
オゾン濃度は森林火災の影響を強く受けることが指摘されている。第2.5.2節にも示したように、1997/1998年はエルニーニョ現象にともない、インドネシアのカリマンタン島などでは大規模森林火災が多発した。森林火災周辺で行われた航空機観測では、上空に広範囲にわたって高濃度の一酸化炭素が観測されるとともに、高濃度のオゾンの層が出現していた(Sawa et al., 1999; Tsutsumi et al., 1999)。これは、オゾン前駆物質である窒素酸化物や一酸化炭素などが大規模な森林火災により大量に放出されたためとみられている(Levine, 1999; Duncan et al., 2004)。モデル計算によれば、光化学反応によって大量のオゾンが対流圏で生成され、森林火災発生域だけでなく周辺域まで輸送されることが示されている(Hauglustaine et al., 1999)。また、シベリア域では毎年のように大規模な森林火災が発生しており、最近では1998年の夏季から秋季にかけての森林火災の規模が大きかった(Tanimoto et al., 2000; Kajii et al., 2002; Kasischke and Bruhwiler, 2004)。1998年夏季から秋季にかけて綾里においても一酸化炭素濃度の増加がみられており、オゾンもこの時期に月平均で数ppbほど濃度が増加していることがわかっていることから、この増加はシベリアの森林火災の影響によると考えられる(気象庁, 2003)。
オゾンゾンデによる対流圏オゾン鉛直分布 | 昭和基地における地上オゾン濃度