温室効果ガス世界資料センター(WDCGG)に報告された2009年までの一酸化炭素濃度観測データを用いて、二酸化炭素と同様の濃度変動解析を行った。全球濃度の解析方法は第8.1節に記述してある。
WDCGGの解析による2009年の全球平均濃度は約89 ppbである。図2.5.2.1は、緯度帯別に平均した大気中の一酸化炭素濃度の月別値、季節変動成分を除いた濃度及び濃度年増加量の経年変化を3次元的に表現したものである。これによると、季節変動の振幅は北半球中緯度で大きく、南半球では小さい。また、季節変動成分を除いた濃度は北半球中緯度でもっとも高く、南半球では低い。
|
図2.5.2.1 緯度帯別の大気中の一酸化炭素濃度(上)、季節変動成分を除いた濃度(中)、及び濃度年増加量(下)の経年変化の3次元表現図(1992〜2009年)。 |
図2.5.2.2は、30度ごとの緯度帯別の、季節変動成分を除いた濃度変動と、その時間微分である濃度年増加量の変動を示している。主に北半球で、1992年から1993年にかけて一時的な減少、1997年から1998年にかけてと2002年から2003年にかけて、一時的な増大がみられる。濃度年増加量で見ると、濃度変化に対応して1997年後半の南半球低緯度と北半球低緯度での増大と1998年前半の北半球中・高緯度での増大及び 2002年の北半球での増大が特徴的である。
|
図2.5.2.2 30度緯度帯ごとの季節変動成分を除いた大気中の一酸化炭素濃度(上)と、その時間微分である濃度年増加量(下)の経年変化。 |
季節変動による振幅の緯度による違いは、衛星による観測結果とモデルを組み合わせて算出した全球の一酸化炭素濃度分布とほぼ一致している(例えば、Bergamaschi et al., 2000; Holloway et al., 2000; Clerbaux et al., 2001)。濃度勾配は北半球中緯度から南半球の低緯度にかけて大きく、南半球における緯度による濃度差は小さい。これもNovelli et al.(1998)の観測結果と良く対応している。これは、一酸化炭素の主な放出あるいは生成域が北半球の中緯度帯にあり、主な消滅域である赤道付近に運ばれると濃度が大きく減少するためと考えられる。
1997年から1998年にかけての北半球や南半球低緯度での高い濃度年増加量は、1997年後半にはインドネシア周辺で、1998年夏から秋にかけてはシベリアで大規模な森林火災が発生しており、これらの影響によると考えられる。また、2002年の高い濃度年増加量も、同じ時期にシベリアでエルニーニョ現象に対応した大規模な森林火災が発生しており(Simmonds et al., 2005)、それによる影響である可能性がある。
一酸化炭素濃度の変動をもたらすものとして、火山噴火と森林火災が挙げられる。
火山噴火による影響の代表例は、1991年末から1993年中頃までの一酸化炭素濃度の低下であり、これは1991年のピナトゥボ火山噴火が引き起こした成層圏での硝酸エーロゾルの増加により、成層圏オゾンが減少して地上に到達する紫外線量が増加し、共通の消滅源であるOHラジカル濃度が対流圏において増加したことによると考えられている(Bekki et al., 1994; Dlugokencky et al., 1996)。
以下では、森林火災の一酸化炭素濃度変動への影響について述べる。
1997年の初めから発生したエルニーニョ現象により、1997年後半にインドネシア周辺で、大規模な森林火災が発生した。実際に、1997年には、気象研究所とオーストラリア及びインドネシアの研究機関が共同で行ったインドネシアの森林火災付近での航空機観測で、高度1.3 kmで最大で約9 ppm(9000 ppb)という極めて高濃度の一酸化炭素を検出している(気象庁, 1998; Sawa et al., 1999)。大規模な森林火災は、大量の一酸化炭素などを大気中に放出するとみられており(Levine, 1999; Duncan et al., 2003)、北半球や南半球低緯度での1997年から1998年にかけての濃度増加は、これらの森林火災から放出される大量の一酸化炭素の影響によるものと考えられる(Novelli et al., 2003)。Duncan et al.(2003)は衛星などのデータから、インドネシアとマレーシアからのバイオマス燃焼による一酸化炭素の放出量は1997年で133 Tg(1.33億トン)と推定しており、これは彼らの推定によるその年の全世界のバイオマス燃焼からの放出量の約4分の1に相当する。また、日本航空と気象研究所による旅客機を用いた定期的な航空機観測の結果とモデルのシミュレーションから、その際の東南アジアの森林火災は、太平洋上空の高度10 km付近においても一酸化炭素の濃度増加を引き起こしていることがわかっている(Matsueda et al., 1998; Matsueda et al., 2002; Taguchi et al., 2002)。
一方、シベリアをはじめとする北半球高緯度での亜寒帯森林火災は、規模の差はあるが春から秋にかけて毎年のように起こっており、その年間平均焼失面積は、Wotawa et al.(2001)によると480万ha、Kajii et al.(2002)によると510万ha と推定されている。北半球中高緯度の森林火災からの平均的な一酸化炭素放出量として、Yurganov et al.(2004)は、52 Tg/年(0.52億トン/年)と推定しているが、その年の火災の状況により大きく変動することが想定される。
1998年夏から秋にかけて亜寒帯のシベリアで大規模な森林火災が発生した(Kasischke et al., 1999)。この時の火災の面積はKajii et al.(2002)は1100 万ha、Conard et al.(2002)は1330 万ha、 Kasischke and Bruhwiler(2003)は1310 万ha と見積もっている。これに伴い、Yurganov et al.(2004)は、1998年は例年より96 Tg(0.96億トン)多い148 Tg(1.48億トン)の一酸化炭素がバイオマス燃焼から放出されたと推定している。この増分のほとんどは、亜寒帯森林火災からによるとしている。1998年のシベリア森林火災でKasischke and Bruhwiler(2003)は88 Tg(0.88億トン)から128 Tg(1.28億トン)、Duncan et al.(2003)は1998年夏だけで69 Tg(0.69億トン)の一酸化炭素が放出されたと推定している。
この大規模なシベリア森林火災では、シベリアに近い利尻島(北海道)の一酸化炭素濃度観測で、12時間平均値が800 ppbを超えたり(Tanimoto et al., 2000)、8月の平均値からの偏差が130 ppb以上高かったことが報告されている(Yurganov et al., 2004)。また、北海道の茂尻と陸別でのフーリエ変換赤外分光光度計(Fourier Transform Infrared Spectroscopy: FTIR)を用いた一酸化炭素の対流圏気柱全量の観測でも、1998年8月から10月にかけて、値が著しく増大しており、流跡線解析などから、その原因は、シベリアでの森林火災によるとみられている(Zhao et al., 2002)。
2002年から2003年にかけてもロシアと北アメリカで大規模な森林火災が発生して、日本の日照にも影響が出た(「大気・海洋環境観測報告第5号(2003年観測結果)」の第4.7節参照)。その規模は、不確定さが大きいながらも、Simmonds et al.(2005)は、ロシアの火災による消失面積は3100万ha、2003年の亜寒帯森林火災からの一酸化炭素の放出量として142 Tg(1.42億トン)と推定している。
WDCGGに報告された2009年までの一酸化炭素濃度観測データを用いて、二酸化炭素と同様の濃度変動解析を行った。全球濃度の解析方法は第8.1節に記述してある。
図2.5.2.3に、2009年の30度ごとの緯度帯別月平均濃度と参照濃度の時系列図を示す。北半球の各緯度帯では2〜3月に濃度極大、7〜8月に濃度極小となる。南半球では、各緯度帯ともに10月に濃度極大となり、濃度極小は中・高緯度で2〜3月、低緯度で5月に出現する。なお、南半球低緯度では、北半球からの高濃度空気の流入によると思われる濃度極大が2月に見られる。
|
図2.5.2.3 30度緯度帯ごとの大気中の一酸化炭素濃度の時系列図(2009年)。実線は2009年の濃度、点線は参照濃度(第8.1節参照)。参照濃度の誤差範囲は±1σ(月別濃度と参照濃度の差の標準偏差)を示す。 |
南半球低緯度の季節変動の形が、南半球中高緯度と異なっているのは、北半球の空気が赤道を越えて南半球に流入するためで、二酸化炭素やメタンと同様に高濃度の北半球の影響が南半球に及んでいることを示している。季節変動の振幅は北半球では南半球の3〜4倍の大きさである。
メタンと同様、主な一酸化炭素の消失過程はOHラジカルとの反応であり、OHラジカル濃度が高まる夏季に一酸化炭素濃度は減少する。しかし、大気中での寿命の違い、放出量・生成量の季節変動の違いから、一酸化炭素濃度の季節変動の形はメタンの場合と明らかに異なっている。気温の高い夏季に放出量が大きいメタンの濃度は極小を過ぎてから急速に増加するのに対し(Saeki et al., 1998)、放出・生成量の季節変動の小さい一酸化炭素は秋季から翌年の春季にかけて比較的単調に増加する。
直接の一酸化炭素の放出が特有の季節変動を引き起こすことがある。南半球の熱帯・亜熱帯地域では毎年8〜10月の乾期末に焼き畑や森林火災などバイオマス燃焼を起源とする一酸化炭素が放出される。南半球の低緯度で8〜10月に比較的大きな一酸化炭素の濃度増大があるのはこの影響とみられる。全球の一酸化炭素濃度分布のモデルシミュレーションによると、その季節ごとの地域分布はバイオマス燃焼のような局地的な放出源の影響を強く反映している(Bergamaschi et al., 2000; Holloway et al., 2000)。地表だけでなく、南半球太平洋上の対流圏上層でも10月から11月にかけて熱帯のバイオマス燃焼の影響を受けていることがわかっている(Matsueda et al., 1998)。
温室効果ガスなどのGAW観測所 | 観測方法(大気一酸化炭素) | 較正(大気一酸化炭素) | 濃度傾向・全球濃度の解析