一酸化炭素

2.5 一酸化炭素

 一酸化炭素(CO)は人間にとって有毒なガスであり、人の健康を保護し、生活環境を保全するために望ましいとされる国の環境基準は「8時間における1時間値の平均は20 ppm以下、かつ24時間における1時間値の平均は10 ppm以下」となっている。一般に地球環境で議論する濃度はこれよりはるかに低い濃度であるが、人間に直接有害でなくても、一酸化炭素は地球環境に影響を与えるガスである。一酸化炭素自体は温室効果ガスではなく、地球表面からの赤外放射をほとんど吸収しない。しかし、OHラジカルとの化学反応を通じ、メタン、ハロカーボン類、また対流圏オゾンなど他の温室効果ガスの濃度を左右する重要な働きをする。現在の一酸化炭素の放出は、これらの温室効果ガスを増加させており、それによる間接的な放射強制力は、現在の一酸化二窒素の増加による直接的な放射強制力より大きいという研究もある(Daniel and Solomon, 1998)。IPCC(2007)においても、一酸化炭素は重要な間接的な温室効果ガスとみなされている。


◆地球環境問題に関連する一酸化炭素の基礎知識

一酸化炭素の放出源と消滅源

 一酸化炭素の放出源はIPCC(2001)によると、化石燃料の燃焼や産業からの放出(650 Tg/年(6.5億トン/年))やバイオマス燃焼による放出(700 Tg/年(7億トン/年))、メタンの酸化(800 Tg/年(8億トン/年))、メタン以外の炭化水素類の酸化(430 Tg/年(4.3億トン/年))、海洋からの放出(50 Tg/年(0.5億トン/年))、植生からの放出(150 Tg/年(1.5億トン/年))であり、その合計は2,780 Tg/年(27.8億トン/年)とされている。消滅源はOHラジカルとの反応であるが、地面での吸収も無視できない程度ある。大気中の一酸化炭素の寿命は、およそ数か月と比較的短いため、人間活動により多量に放出されているにもかかわらず、二酸化炭素のように継続的な濃度増加を引き起こしてはいない。また、人為起源の発生源が地域的に偏ることから、その濃度は時間的、空間的に大きく変化する。また、その特性を利用して、人為起源による汚染大気のトレーサー(追跡物質)として使われることもある。
 全球的な分布では、第2.5.2節に示すように、放出源を反映して北半球高緯度で高く、南半球高緯度に行くほど濃度が低くなる。中高緯度では、OHラジカル濃度変動にともなうと思われる夏季に低く冬季に高くなる季節変動をする。ただし、大規模な森林火災などがあると、それから放出される一酸化炭素により、濃度が一時的に上昇することがある。このような局在する放出源と比較的短い寿命のため、一酸化炭素の地域的な濃度分布は季節により大きく異なるとみられているが、西太平洋域では夏季も冬季も比較的濃度が高くなっている(Holloway et al., 2000)。


大気中の一酸化炭素濃度変動の歴史

 氷床コアの分析によれば、南極大陸では過去2,000年間、一酸化炭素濃度は50 ppb程度で大きな濃度変動がなく、グリーンランドでは19世紀半ばまで90 ppb程度であったものが1950年頃には110 ppb程度まで増加した(Haan and Raynaud, 1998)。一方、ヨーロッパアルプスにおける大気全層の一酸化炭素量の観測によれば、1950年代以降、年間1%弱程度の割合で増加したが、1980年代の半ばには減少傾向に転じた(WMO, 1999)。現在は、長期的に見ると森林火災などによる一時的な増加を除いて、ほぼ0.5 ppb/年の割合でわずかながら減っている(Novelli et al., 2003)。その原因の約30%はピナトゥボ火山の噴火による、一酸化炭素を壊すOHラジカルの増加によるもので、残りは人間活動による排出が減ったためとみられている(Bakwin et al., 1994)。また、近年大規模な森林火災による一酸化炭素の放出が注目されている。最近では、森林火災などのバイオマス燃焼による一酸化炭素の放出は、全放出量に対して30%に達するとみられている(Holloway et al., 2000)。


内容構成一覧

概要 | 最近の知見や話題 | 参考文献

日本における一酸化炭素濃度 | 世界の一酸化炭素濃度

温室効果ガスなどのGAW観測所 | 観測方法(大気一酸化炭素) | 較正(大気一酸化炭素) | 濃度傾向・全球濃度の解析 | 逆解法を用いた放出量解析