ハロカーボン類

2.3 ハロカーボン類

 ハロカーボン類とは、ハロゲン原子であるフッ素、塩素、臭素、ヨウ素を含んだ炭素化合物の総称であり、その多くは本来自然界には存在せず、工業的に生産されるものである。
 この中でハロゲンとしてフッ素と塩素のみを含むものがクロロフルオロカーボン類(chlorofluorocarbons: CFCs、これを日本ではフロン(国外ではフレオン)とよぶ場合がある)、これに水素が加わったものがハイドロクロロフルオロカーボン類(hydrochlorofluorocarbons: HCFCs)、塩素を含まないものがハイドロフルオロカーボン類(hydrofluorocarbons: HFCs)、また全てフッ化された炭素化合物がパーフルオロカーボン類(perfluorocarbons: PFCs)である。また、ハロゲンとして臭素が加わったものをハロン類という。このほか、四塩化炭素(CCl4)や1,1,1-トリクロロエタン(CH3CCl3)などが工業的に生産されるハロカーボンである。自然界にも塩化メチル(CH3Cl)や臭化メチル(CH3Br)などのハロカーボンが存在する。六フッ化硫黄(SF6)、三フッ化窒素(NF3)などは、炭素を含まないためハロカーボン類ではないが、ハロカーボン類と似た性質を持つので、この節で記述する。
 ハロカーボン類は一般に大気中では極めて濃度が低い。しかし、ハロカーボン類は強い温室効果を持つため、濃度が低いにも関わらず1750年以降2005年までのハロカーボン類の増加による放射強制力は、0.34 [0.31〜0.37] W/m2と推定されており、これは長寿命温室効果ガス全体の増加による放射強制力の13%となる(IPCC, 2007)。


◆ハロカーボン類の地球環境問題に関連する基礎知識

ハロカーボン類の特徴と規制

 CFCsの多くは、無色無臭、不燃、無毒で、かける圧力によって容易に気化又は液化し、表面張力が小さいことから、冷蔵庫やクーラーの冷媒、スプレーの噴射剤、半導体の洗浄剤などとして広く用いられ、大気中濃度は1980年代頃まで急速に増加した。第3.1.2節に述べるように、CFCsをはじめとする塩素や臭素を含むハロカーボン類は成層圏オゾンを破壊することが明らかになったことから、「オゾン層の保護のためのウィーン条約(以下、ウィーン条約)」及び「オゾン層を破壊する物質に関するモントリオール議定書(以下、モントリオール議定書)」によって生産などが規制されるようになった。その結果、ウィーン条約とモントリオール議定書で規制されているCFCs、CCl4、CH3CCl3は大気中の濃度増加が止まるか減少し始めており(WMO, 2009)、対流圏中のハロカーボン類に含まれている全塩素量は1993年をピークに減少している(Prinn et al., 2000)。一方、CFCsの代替物質として使われるHCFCsやHFCsの濃度は増加している。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)とモントリオール議定書の技術・経済評価パネル(TEAP)の特別報告書(IPCC/TEAP, 2005)によれば、毎年HCFCsは+3〜+7%、HFCsは+13〜+17%の割合で増加している。なお、HCFCsはCFCsよりもオゾン層を破壊する力が弱いため代替フロンとして使用され始めたが、現在はウィーン条約とモントリオール議定書の規制物質となっている。HFCs、PFCs、SF6はオゾン層を破壊しないが強い温室効果を持つため、二酸化炭素、メタン、一酸化二窒素とともに京都議定書における削減対象となっている。


ハロカーボン類の濃度変動の歴史

 20世紀前半に生産が始まったハロカーボン類であるが、濃度の観測が始まったのは1970年代後半である。図2.3.1に様々なハロカーボンの全球平均濃度を示す。多くのハロカーボン類は濃度が増加を続けているが、特定フロンのCFC-11、CFC-12及びCFC-113、CH3CCl3、CCl4の濃度は、濃度増加の鈍化や増加から減少への転換が見られる。特定フロン、CH3CCl3、CCl4はモントリオール議定書により先進国では1996年までに生産が全廃されている。HCFCsもモントリオール議定書に定められた規制物質であるが、消費の規制が2004年から、生産の規制が2010年からであり、濃度の増加は続いている。HFCs、PFCs(図2.3.1ではCF4、C2F6)、SF6は京都議定書の削減対象物質であるが、これらも増加を続けている。

主なハロカーボンの濃度の変化。IPCC(2007)より

図2.3.1 AGAGEとNOAA/ESRLの観測により求めた主なハロカーボンの全球平均濃度の変化。IPCC(2007)より。
Fig. 2.3.1 Time series of global mean concentrations of atmospheric halocarbons using monthly mean measurements mainly from the AGAGE and NOAA/ESRL networks (from IPCC, 2007).


オゾン層破壊と地球温暖化

 対流圏のオゾンは温室効果を持つが(第2.6節を参照)、成層圏のオゾンもまた、地表から放出された赤外放射や太陽からの放射を吸収して温室効果に寄与している。このことからオゾン層破壊物質は、成層圏オゾンの減少を通じて間接的に負の放射強制力をもたらすといえる。IPCC(2007)は、1750年以降2005年までの成層圏オゾンの減少による放射強制力を−0.05±0.10 W/m2と推定している。しかし、オゾン層破壊物質のうちCFCsやHCFCsなどは強い温室効果を持つことから、オゾン層破壊物質全体としては、成層圏オゾンの減少による間接的な負の放射強制力は、温室効果ガスとしての正の放射強制力を下回っている可能性が非常に高い(IPCC/TEAP, 2005)。京都議定書では、オゾン層破壊の効果が微小でモントリオール議定書では規制されていないオゾン層破壊物質代替物質であって、温室効果が大きなHFCs、PFCs、SF6の3種類の気体を排出削減の対象物質としている。また、第3.1節に述べるように、成層圏オゾンの減少は成層圏の気温を下げる一方で、地球温暖化に伴う成層圏の気温の降下によって、オゾン層回復が遅れる可能性が指摘されている。

様々なハロカーボン類の寿命、地球温暖化係数

 地球温暖化係数は、特定期間(例えば100 年)の放射強制力の積算値を比較し、さまざまな温室効果ガスの排出に伴う気候変動の可能性を比較する方法で、二酸化炭素と比較した数値で表される。
 IPCC第4次評価報告書(IPCC, 2007)には、第2章と技術要約に、様々なガスの寿命や地球温暖化係数について記述がある。IPCC(2007)から、ハロカーボン類の寿命や地球温暖化係数を抜粋すると、以下のようになる。

種類
Name
寿命(年)
Lifetime (years)
地球温暖化係数
Global Warming Potential
20年
20 years
100年
100 years
500年
500 years
クロロフルオロカーボン類
CFCs
45 – 17005310 – 110004750 – 144001620 – 16400
ハロン類
Halons
16 – 653680 – 84801640 – 7140503 – 2760
四塩化炭素
CCl4
2627001400435
臭化メチル
CH3Br
0.71751
1,1,1-トリクロロエタン
CH3CCl3
550614645
ハイドロクロロフルオロカーボン類
HCFCs
1.3 – 17.9273 – 549077 – 231024 – 705
ハイドロフルオロカーボン類
HFCs
1.4 – 270437 – 12000124 – 1480038 – 12200
パーフルオロカーボン類
PFCs
1000 – 500005210 – 86307390 – 122009500 – 18200

  なお、個々のガスの詳細については、IPCCのホームページを見ていただきたい。IPCC第4次評価報告書の第1作業部会のページのURLはhttp://www.ipcc.ch/ipccreports/ar4-wg1.htm(英語)http://www.data.kishou.go.jp/climate/cpdinfo/ipcc/ar4/index.html(日本語)である。日本語ページに掲載されている「第2章」は概要のみで地球温暖化係数については記述がないので、技術要約を参考にしてほしい。



内容構成一覧

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日本におけるハロカーボン類濃度 | 世界のハロカーボン類濃度

温室効果ガスなどのGAW観測所 | 観測方法(大気ハロカーボン類)