二酸化炭素に関する知見や話題

2.1 二酸化炭素

二酸化炭素に関する最近の知見や話題

 地球の炭素循環には大気中だけでなく、海洋や植生、土壌の中で様々なメカニズムが関わっており、それらを解明する研究が進められている。それらの代表的な取組について、このページでは下記の項目を紹介する。

 なお、これら以外のメカニズムも、大きな影響を及ぼしており、例えば森林火災は火災時の二酸化炭素放出だけでなく、火災後も放出を続けることがわかっている(大気・海洋環境観測報告第7号(気象庁, 2007)の第2.1節参照)。

気温上昇が引き起こす二酸化炭素放出量増加の正のフィードバックについて

 将来の二酸化炭素濃度がどうなるかは、将来の気温の予測を行う上でも重要なポイントである。これまでの研究によると、気温が上昇すると自然から放出される二酸化炭素が増えることがわかっており、気温が上昇すると二酸化炭素濃度が増えてさらに気温が上昇すると言う意味で、正のフィードバックと呼ばれることがある。Friedlingstein et al.(2003)は、この気温の上昇によって二酸化炭素濃度が増える原因として、昇温によって主に南大洋の循環と、植生と土壌炭素の応答が変わるためとしている。その正のフィードバックの結果、Cox et al.(2000)は、現在吸収の約半分を担っている陸上生物圏は昇温によって2050年以降は反対に放出源になると指摘しており、Friedlingstein et al.(2006)は、21世紀末までに昇温によってさらに20〜200 ppm増加し、それが0.1〜1.5℃のさらなる温暖化をもたらすとしている。Scheffer et al.(2006)も、二酸化炭素だけ考慮してもこの正のフィードバックによって温暖化がさらに15〜78%促進されると計算している。これらの結果は、気温に対する炭素循環の応答の重要性を示唆している。

 これまでの気温の将来予測のための二酸化炭素濃度は、人為起源による二酸化炭素量のみをシナリオの形で与えて将来の二酸化炭素濃度を予測していたが、実際の大気中濃度は自然界の炭素循環の影響も受けるため、正確な濃度予測には自然の吸収・放出サイクルも含める必要がある。ところが、自然界の炭素循環は複雑であり、例えばその時の気温などの影響も受けるため、その定量的な予測は簡単ではない。IPCC第4次評価報告書では、人為起源の排出量(A2シナリオ)に、炭素循環モデルによる自然による二酸化炭素の変動を加味した濃度将来予測を行っているが、結果は各モデルにより大きくばらついているだけでなく、人為起源の排出シナリオを超える濃度を予測した結果も多く示されている。

炭素循環結合モデルによる二酸化炭素将来予測濃度とIPCC 第4 次評価報告書で使われている標準的な二酸化炭素濃度

図2.1.4 炭素循環結合モデルによるSRES A2 シナリオに対する二酸化炭素将来予測濃度(赤)とIPCC 第4 次評価報告書で使われている標準的な二酸化炭素濃度(黒)。IPCC(2007)より。
Fig. 2.1.4 CO2 concentration as simulated by the Coupled Climate-Carbon Cycle Models for the SRES A2 emission scenario (red) compared with the standard atmospheric CO2 concentration used as a forcing for many IPCC AR4 climate models (black) (from IPCC, 2007).

 また、別の要因として、シベリアなどの永久凍土表層に炭素が450 Gt(4,500億トン: 現在の大気中総量の半分以上に相当)蓄積されており、これが高緯度の急速な昇温によって解け出せば、急速に分解して二酸化炭素になり、さらに温暖化を加速する可能性も指摘されている(Zimov et al., 2006)。

航空機や衛星による二酸化炭素観測プロジェクト

 将来の気候変動を高精度で予測するためには全球における二酸化炭素の3次元分布を把握することが重要であり、そのために航空機や衛星による二酸化炭素観測プロジェクトが実施・計画されている。

 航空機による観測プロジェクトとしては、欧州を中心とする民間定期航空機を用いたCARIBIC(Brenninkmeijer et al., 2007)と日本航空(JAL)の航空機を用いたCONTRAIL(Sawa et al., 2008、Machida et al., 2008、Matsueda et al., 2008)などがあり、前者はIAGOS(http://www.iagos.org/)との連携を進めている。これらの観測プロジェクトでは、航空機に搭載された観測装置や試料採取装置を用いてルート上の大気成分を分析している。

 衛星による観測プロジェクトでは、2009年1月に打ち上げられた温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」(GOSAT)があり、軌道上から温室効果ガス観測センサーを用いて二酸化炭素の濃度分布などを観測する。また、欧州宇宙機関(ESA)が2002年に打ち上げた地球観測衛星ENVISATにも二酸化炭素などを測定できるセンサーSCIAMACHYが搭載されている(Dils et al., 2006)ほか、フランス国立宇宙研究センター(CNES)が開発した大気サウンディング赤外干渉計(IASI)でも二酸化炭素などを測定している(Crevoisier et al., 2009)。高分解能フーリエ変換分光器により地上から上空までの二酸化炭素カラム量を測定する全炭素カラム量観測ネットワーク(TCCON)は、このような衛星データの検証手法として有効である(Ohyama et al., 2009)。

火山からの二酸化炭素の放出

 火山からは、火山灰や二酸化硫黄などのほか二酸化炭素も放出される。米国地質調査所(USGS)によると、世界のすべての地表及び海底の火山から1年あたりに放出される二酸化炭素はおよそ1.5〜2.7億トンと見積もられている(USGS, 2010)。これは、2007年に人間活動(化石燃料燃焼、セメント生産、ガスフレアリング)により排出された二酸化炭素量約307億トン(Boden et al., 2010)の0.5〜0.9%に相当する。

炭素循環解析のための国際的な取組

 将来の気候変動を予測するとともに、大気中の温室効果ガス増加を抑制する対策を支援するため、炭素循環を定量的に解析することが重要である。このため世界で様々な取組が行われている。FLUXNETは、陸上生態系と大気の間の二酸化炭素、水蒸気、エネルギーの交換量を長期的かつ連続的に測定する数百か所のタワー観測施設の国際ネットワークである(Baldocchi et al., 2001)。また、モデル同化技術による二酸化炭素放出・吸収量の推定が近年盛んになっており、気象庁(第2.1.3節参照)のほか、米国海洋大気庁地球システム研究所(NOAA/ESRL)では、同所の観測ネットワークのほかオーストラリア連邦科学産業研究機関(CSIRO)などからの観測データを使って、二酸化炭素交換量の全球的な分布や経年変化を求めCarbonTrackerとして公開している(Peters et al., 2007)。グローバルカーボンプロジェクト(GCP)は、地球圏-生物圏国際協同研究計画(IGBP)や世界気候研究計画(WCRP)との協力の下で全球炭素循環の全体像解明を科学的な目的とする国際プロジェクトであり、全球の炭素収支に関する評価結果を毎年公表している(Global Carbon Project, 2008)。

海洋中の炭素循環

 海洋は陸上生物圏とともに、大気中に排出された二酸化炭素の大きな吸収源である。二酸化炭素は水に溶けると、その多くは重炭酸イオンとなるが、このイオンとしての存在形態(無機炭酸)は、分子状の二酸化炭素として海水中に存在するより100倍以上も多く炭素を溶解することができる。また海洋表層では、植物プランクトンなどの海洋生物が光合成によって二酸化炭素を体内に取り込むため、二酸化炭素濃度が低下し、さらに大気中の二酸化炭素を取り込むことが可能となる。海洋生物に取り込まれた二酸化炭素は、海洋生物の死骸や排泄物の沈降・分解により、海洋内部の中・深層に輸送され蓄えられる。海洋表層の二酸化炭素が中・深層へと輸送されるこの働きは、海洋生物が重要な役割を果たしていることから、「生物ポンプによる海洋の二酸化炭素の貯蔵機能」と呼ばれている。

大気−海洋間の二酸化炭素交換量の推定

 気象庁では、海洋大気中の二酸化炭素濃度は、水蒸気の影響を除くため乾燥空気中の体積混合比(χCO2air(ppm))として観測している。また、表面海水中の二酸化炭素濃度は、密閉した空気中に表面海水をシャワー状に流して、海水中の二酸化炭素と密閉した空気中の二酸化炭素を平衡にし、この平衡状態に達した空気中の二酸化炭素濃度を大気と同様に乾燥空気中の体積混合比(χCO2sea(ppm))として測定している。

 大気と海洋の二酸化炭素分圧及び大気−海洋間の分圧差(pCO2air, pCO2sea, ΔpCO2)は、二酸化炭素濃度(体積混合比)に、大気圧(P)と飽和水蒸気圧(e)の差を乗じ、次式で計算している。

pCO2air = (Pe) × χCO2air
pCO2sea = (Pe) × χCO2sea
ΔpCO2 = pCO2seapCO2air = (Pe) × (χCO2seaχCO2air

ただし、P = 1 atmとした。

本報告では、表面海水中及び大気中の二酸化炭素濃度にはppmの単位を用い、大気と海洋の二酸化炭素分圧及び大気・海洋間の二酸化炭素分圧差にはμatmの単位を用いる。大気−海洋間の二酸化炭素分圧差は、海水中の分圧から大気中の分圧を差し引いたものと定義している。この場合、分圧差が正の場合は二酸化炭素を放出し、負の場合は吸収していることを表している。詳しくは第7.4節に記述している文献を参照のこと。

 海洋は海面を通して大気と二酸化炭素を交換しており、この交換過程を経て大気中の濃度に影響を与えている。そのため、大気−海洋間での二酸化炭素交換量を把握し、またそれが変動する要因を把握することは、将来の大気中の二酸化炭素濃度を予測する上で重要である。二酸化炭素交換量は表面海水中及び大気中の二酸化炭素の圧力の差である分圧差(ΔpCO2)に依存する。  大気・海洋間の二酸化炭素の正味の交換量(F)は、ガス交換係数(K)、大気・海洋間の二酸化炭素分圧差(ΔpCO2)により、次式で計算している。

F = K × ΔpCO2 = K × (pCO2seapCO2air)

 ここで、ガス交換係数は風速や海面水温・塩分に依存した係数である。
 大気−海洋間の二酸化炭素交換量が正の場合は二酸化炭素を放出し、負の場合は吸収していることを表している。

 ガス交換係数は、Wanninkhof(1992)の方法(長期間の平均風速を用いる方法)により、風速、海面水温・塩分から求めている。

 北西太平洋亜熱帯域における大気−海洋間の二酸化炭素交換量の月ごとの見積もりを1996年以降の期間について行っている。対象海域は、北緯11〜30度、東経130〜165度である。北西太平洋亜熱帯域では、表面海水の二酸化炭素分圧の時間変動と水温のそれによい相関があることから(Inoue et al., 1995)、経験的内挿法によって表面海水の二酸化炭素分圧を求めることができる(村田ほか, 1996)。表面海水の二酸化炭素分圧は、気象庁海洋気象観測船「凌風丸」及び「啓風丸」による観測値を用いている。大気の二酸化炭素分圧は、気象庁が南鳥島(北緯24度17分、東経153度59分)で観測した二酸化炭素濃度と海面気圧の解析値を用いて求めている。大気中の二酸化炭素濃度のない各月は、平均的な年増加率、季節変動から推定した濃度を用いている。

 太平洋赤道域における大気−海洋間の二酸化炭素交換量の月ごとの見積もりを1992年以降の期間について行っている。対象海域は、南緯10〜北緯5度、東経135〜西経95度である。表面海水の二酸化炭素分圧は、表面海水中の全炭酸濃度と全アルカリ度を海面水温・塩分、年から導く経験式によって求めたのち、これらと二酸化炭素のヘンリー定数、炭酸やホウ酸の酸解離平衡定数などを用いて求めることができる(中舘・石井, 2007)。全炭酸濃度を導く経験式は、東部の赤道湧昇域と西部の暖水域のそれぞれに適用する2つの式があり、赤道湧昇域と暖水域の区別は、海面塩分で行っている。大気の二酸化炭素分圧は、米国海洋大気庁地球システム研究所(NOAA/ESRL)がクリスマス島(北緯1度42分、西経157度10分)で観測した大気中の二酸化炭素濃度月平均値、また海面気圧の解析値から求めている。大気中の二酸化炭素濃度のない各月は、平均的な年増加率、季節変動から推定した濃度を用いている。

 また、次の解析値を用いている。

  • 海面水温 気象庁全球日別海面水温解析値(緯度 0.25゜×経度 0.25゜)
  • 海面塩分 気象庁海洋データ同化システム(MOVE/MRI.COM-G)解析値
  • 風速及び海面気圧 気象庁と(財)電力中央研究所との共同による長期再解析値(JRA-25、1992〜2004年)、JRA-25と同じシステムでの気候解析を現在に延長した気象庁気候データ同化システム(JCDAS、2005年〜)解析値

 気象庁では、海水中の二酸化炭素濃度データについて、世界の濃度基準の変更にあわせて再計算したり、新たに品質的に問題があると判断された一部のデータを削除するなど、品質の向上に努めている。大気中の二酸化炭素濃度データについても、世界の濃度基準の変更で再計算されるなど更新される場合がある。また、気象庁では、日々の天候や海洋の状態について、数値モデルの改善を図るなどして、より精度の高い情報を提供できるよう努めており、過去の状態についても最新の数値モデルで再計算し、長期にわたる気候変動や海洋変動の監視精度を高めている。大気−海洋間の二酸化炭素交換量についても、長期変動をより詳しく正確に捕らえるために、最新の数値モデルで得られた海面水温や風速などの解析値を用いて、過去データを再計算する場合がある。

海洋データによる気候値的な大気−海洋間二酸化炭素交換量

 Takahashi et al.(2002)は、1950年代から世界の様々な海域で取得されてきた94万を超える表面海水中の二酸化炭素分圧データを解析し、全海洋における月ごとの大気−海洋間の二酸化炭素交換量を見積もった。この解析結果によると、海洋が年間に吸収する二酸化炭素量は、炭素換算で2.2 Pg(太平洋、大西洋、インド洋、南大洋でそれぞれ0.40、0.92、0.43、0.47 Pg (Pgは、1015g))である。二酸化炭素の放出が最も多い海域は東部太平洋赤道域、アラビア海北西部であり、また大西洋熱帯域、インド洋、北西太平洋亜寒帯域も顕著な放出域であることが示されている。一方、二酸化炭素の吸収域は、亜熱帯循環域、亜熱帯循環域と亜寒帯域の間の北緯40〜60度帯及び南緯40〜60度帯付近にみられるとしている。表面海水中の二酸化炭素分圧は、温度効果と生物学的効果の両者の季節変動に対応して変動していること、また亜熱帯循環域では温度効果が卓越し、東部太平洋赤道域、アラビア海北西部、チリ沿岸の湧昇域、北大西洋亜寒帯及び南極大陸周辺の沿岸水では生物学的効果が卓越していることなどが示されている。なお、上記の見積もり量はエルニーニョ現象の時期を除く期間の解析結果である。エルニーニョ現象の時期には太平洋赤道域における二酸化炭素の放出が弱まり、太平洋全体では吸収量が多くなるとされている。

人為起源二酸化炭素の海洋への蓄積量

 Sabine et al.(2004)は、国際的なプロジェクトであるWorld Ocean Circulation Experiment(WOCE)やJoint Global Ocean Flux Study(JGOFS)などを通じて1990年代に取得された炭素、酸素、栄養塩、フロン類などの高精度な海洋観測データにもとづいて、1800〜1994年に海洋に吸収された二酸化炭素が118±19 PgC (PgCは炭素換算にして1015g) と見積もった。これは産業革命以降の化石燃料の消費によって排出された二酸化炭素(244±20 PgC)の48%にあたり、もしこの二酸化炭素が海洋に吸収されていなければ、大気中の濃度は現在より約55 ppm高くなるとしている。約200年間海洋は二酸化炭素の吸収源であったのに対して、陸全体は、森林破壊などの土地利用の変化による放出量(100〜180 PgC)が陸上生物圏による吸収量(61〜141 PgC)を上回り、正味では放出源(放出量は39±28 PgC)であったと推定している。さらに、海洋中に分布する人為起源二酸化炭素は、海域別にみると、北大西洋、南緯14〜50度の海域で多く蓄積されており、それぞれ約23%、約40%を占めていること、また、深度別にみると200 m深までに約30%、400 m深までに約50%が蓄積され、人為起源二酸化炭素がほとんどみられない平均の深度がおよそ1000 mとされている。

海洋の酸性化

 大気中の二酸化炭素濃度の増加に伴い、海洋のpHの低下(酸性化)が進行しており、炭酸カルシウムの飽和度が低下している(次式のK1が右向きに、K2が左向きにそれぞれ進行する。その結果、H+(水素イオン)濃度が増加(pHは低下)と、CO32-(炭酸イオン)濃度の減少により炭酸カルシウム飽和度の低下が起こる。)。

    式(1) (1)

 このため、プランクトン、ウニ、ヒトデ、サンゴなど炭酸カルシウムの殻を持つ海洋生物に成長阻害などの影響が及んでいる(Doney et al., 2009)。


内容構成一覧

概要 | 基礎知識 | 参考文献

日本における二酸化炭素濃度 | 世界の二酸化炭素濃度 | 二酸化炭素放出量の推定 | 北西太平洋の二酸化炭素濃度 | 北西太平洋の二酸化炭素関連物質 | 大気−海洋間の二酸化炭素交換量推定

温室効果ガスなどのGAW観測所 | 観測方法(大気二酸化炭素) | 較正(二酸化炭素) | 濃度傾向・全球濃度の解析 | 逆解法を用いた放出量解析 | 海洋気象観測船