気象庁は、経験的手法を用いて表面海水中の二酸化炭素分圧を見積もり、大気−海洋間の二酸化炭素分圧差及び風速から、北西太平洋亜熱帯域及び太平洋赤道域の大気−海洋間の二酸化炭素交換量を推定している。
北西太平洋亜熱帯域(北緯11〜30度、東経130〜165度)における2009年の月ごとの大気−海洋間の二酸化炭素分圧差の分布図を図2.1.6.1に、1996〜2009年の月ごと及び年ごとに当該海域で積算した大気−海洋間の二酸化炭素交換量を図2.1.6.2に示す。当該海域は年間を通してみると二酸化炭素の吸収域であり、1996〜2009年の解析期間を通じて海洋が大気から二酸化炭素を吸収している。2009年の月ごとの二酸化炭素交換量は、1月は平年(1996〜2009年の平均)に比べて吸収量が多く、それ以外の月は平年と同程度であった。また、2009年の二酸化炭素の年間吸収量は、0.076 PgC(炭素換算で0.76億トン)であり、平年の0.063 PgC(炭素換算で0.63億トン)と同程度であった。
2009年は、1月に二酸化炭素の吸収量が平年(1996〜2009年の平均)よりも多くなった。1月の月平均風速は平年(1996〜2009年の平均)よりも大きく、二酸化炭素を吸収する時期に風が強かったことによって大気と海洋の間の二酸化炭素の交換が促されたため、吸収量が多くなったものと考えられる。2月以降は、平年と同程度の二酸化炭素の吸収量となり、二酸化炭素の年間吸収量では、2009年は平年と同程度となった。
北西太平洋亜熱帯域では、6〜10月には二酸化炭素が海洋から大気へ放出され、その他の時期は大気から海洋に吸収されるという季節変動がみられる。年間で積算すると海洋の吸収量が放出量を上回り、当該海域は解析期間を通じていずれの年も二酸化炭素の吸収域となっている。
大気−海洋間の二酸化炭素の交換量は、大気−海洋間の二酸化炭素分圧差と風速の2乗に比例する。北西太平洋亜熱帯域では、水温が高くなる夏季には、大気よりも表面海水中の二酸化炭素分圧が大きくなって放出域となり、水温が低くなる冬季には、表面海水中の二酸化炭素分圧が低くなって吸収域となるという季節変動を示す。1998年に吸収量が大きく減少したのは、年間を通じてこの海域の海面水温が高く、表面海水中の二酸化炭素濃度分圧が高くなったためである。
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図2.1.6.1 経験的手法を利用して推定された2009年の月ごとの大気−海洋間の二酸化炭素分圧差(ΔpCO2)の分布。正の値は、海洋の二酸化炭素の分圧の方が高く、海洋から大気に二酸化炭素が放出されていることを示す。 |
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図2.1.6.2 北西太平洋亜熱帯域(北緯11〜30度、東経130〜165度)における(a)月ごと、(b)年ごと及び(c)2009年の月ごとの正味の大気−海洋間の二酸化炭素交換量。(b)の点線は平年値(1996〜2009年の平均)を、(c)の白線と青い陰影は、それぞれ平年値と標準偏差(±1σ)を表す。正の値は海洋が二酸化炭素を放出していることを、負の値は吸収していることを示す。二酸化炭素交換量の計算には、図2.1.6.1に示した大気−海洋間の二酸化炭素分圧差を使用した。1 PgCは炭素換算で10億トン。 |
太平洋赤道域(南緯10〜北緯5度、東経135〜西経95度の範囲)における2009年の月ごとの大気−海洋間の二酸化炭素分圧差の計算結果を図2.1.6.3に示す。2009年の前半は、表面海水中の二酸化炭素分圧が大気よりも60 µatm以上高い領域が東経160度付近にまで広がっていたが、夏以降は徐々に縮小した。
1992〜2009年の月ごと及び年ごとに当該海域で積算した大気−海洋間の二酸化炭素交換量推定値を図2.1.6.4に示す。当該海域は、年間を通して二酸化炭素の放出域となっており、解析期間のすべての月で二酸化炭素の放出域である。2009年の月ごとの二酸化炭素放出量は、平年(1992〜2009年の平均)に比べて7月に多く、10月及び12月に少なくなった。また、2009年の二酸化炭素の年間放出量は、0.48 PgC(炭素換算で4.8億トン)であり、平年の0.49 PgC(炭素換算で4.9億トン)と同程度であった。
太平洋赤道域は、赤道湧昇によって下層から二酸化炭素を豊富に含んだ海水が湧きあがっており、表面海水中の二酸化炭素分圧が大気よりも高くなるため、二酸化炭素の放出域となっている。2009年は、夏に発生したエルニーニョ現象の影響により赤道湧昇が弱まったため、二酸化炭素の放出域が縮小し、10月及び12月には、平年よりも二酸化炭素の放出量が少なくなった。一方、7月は、月平均風速が大きかったため、大気と海洋の間の二酸化炭素の交換が促され、平年に比べて多くなったと考えられる。2009年の二酸化炭素の年間放出量は、平年と同程度となった。
海洋は、全球で平均すると二酸化炭素を吸収しているが、赤道域や北太平洋、南大洋の高緯度域などには放出域が存在している。特に太平洋熱帯域は二酸化炭素の放出量が最も多い海域であり、年間を通して二酸化炭素を放出している。
当該海域では、西部と東部で表面海水中の二酸化炭素分圧を比べると、海面付近に暖かい海水が分布する西部で低く、冷たい海水が分布する東部で高くなっている。これは東部では二酸化炭素を多く含む冷たい海水が下層から湧昇しているためである。このため、西部では二酸化炭素の放出量が小さく、東部では放出量が多くなっている。
当該海域での大気−海洋間の二酸化炭素交換量には、大きな経年変動がみられる。この大きな経年変動には、エルニーニョ/ラニーニャ現象に伴う表面海水中の二酸化炭素分圧の変動が大きく影響している。西部の暖かい海水と東部の冷たい海水の境界は、エルニーニョ/ラニーニャ現象が発生すると東進/西進するため、表面海水中の二酸化炭素分圧の低い海域が広く/狭くなり、太平洋赤道域全体では海洋から大気への二酸化炭素放出量が小さく/大きくなる。例えば、1997年には、エルニーニョ現象の影響により二酸化炭素の放出量は大きく減少し、1999年にはラニーニャ現象の影響により大きく増加した。
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図2.1.6.3 経験的手法を利用して推定された2009年の月ごとの大気−海洋間の二酸化炭素分圧差(ΔpCO2)の分布。正の値は、海洋の二酸化炭素の分圧の方が高く、海洋から大気に二酸化炭素が放出されていることを示す。 |
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図2.1.6.4 太平洋赤道域(南緯10〜北緯5度、東経135〜西経95度)における(a)月ごと、(b)年ごと及び(c)2009年の月ごとの正味の大気−海洋間の二酸化炭素交換量。(b)の点線は平年値(1992〜2009年の平均)を、(c)の白線と青い陰影は、それぞれ平年値と標準偏差(±1σ)を表す。正の値は海洋が二酸化炭素を放出していることを示す。二酸化炭素交換量の計算には、図2.1.6.3に示した大気−海洋間の二酸化炭素分圧差を使用した。また、エルニーニョ期間を赤で、ラニーニャ期間を青で(a)に示している。1 PgCは炭素換算で10億トン。 |
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