世界の二酸化炭素濃度

2.1.2 世界の二酸化炭素濃度

世界の二酸化炭素濃度と濃度年増加量の経年変化

 温室効果ガス世界資料センター(WDCGG)に報告された2009年までの二酸化炭素濃度観測データを用いて、国内観測所のデータに対して行ったのと同様の濃度変動解析を行った。全球濃度の解析方法は第8.1節に記述してある。

結果

 WDCGGの解析による2009年の全球平均濃度は386.8 ppmとなっており、産業革命(18世紀後半)以前の平均的な値である280 ppmに比べて38%増加している。
 図2.1.2.1は、緯度帯別に平均した大気中の二酸化炭素濃度の月別値、季節変動成分を除去した濃度及び濃度年増加量の経年変化を3次元的に表現したものである。これらの図から、季節変動の振幅は北半球中高緯度では大きいが南半球では小さいか不明瞭であること、濃度の増加は北半球中高緯度で先行して次第に南半球に拡がっていくこと、濃度年増加量は全球的なスケールで変動しているが、北半球中高緯度で変動幅が大きいことなどがわかる。

緯度帯別の大気中の二酸化炭素濃度の経年変化 緯度帯別の大気中の二酸化炭素、季節変動成分を除いた濃度の経年変化 緯度帯別の大気中の二酸化炭素濃度年増加量の経年変化

図2.1.2.1 緯度帯別の大気中の二酸化炭素濃度(上)、季節変動成分を除いた濃度(中)、及び濃度年増加量(下)の経年変化の3次元表現図(1983〜2009年)。
Fig. 2.1.2.1 Temporal development of the latitudinal distributions of atmospheric CO2 concentrations (top), deseasonalized concentrations (middle), and growth rates (bottom) for the period 1983–2009.

 図2.1.2.2は、30度ごとの緯度帯別の、季節変動成分を除いた濃度変動(長期変動成分)と、その時間微分である濃度年増加量の変動を示している。北半球中高緯度で濃度が高く、南半球中高緯度では低い。季節変動を除いたときに北半球中高緯度でもっとも濃度が高いのは、人間活動にともなう化石燃料の消費による二酸化炭素の放出がこれらの緯度帯で大きいことを示している。

30度緯度帯ごとの季節変動成分を除いた大気中の二酸化炭素濃度の経年変化 30度緯度帯ごとの季節変動成分を除いた大気中の二酸化炭素濃度年増加量の経年変化

図2.1.2.2 30度緯度帯ごとの季節変動成分を除いた大気中の二酸化炭素濃度(上)と、その時間微分である濃度年増加量(下)の経年変化。
Fig. 2.1.2.2 Time series of deseasonalized atmospheric CO2 concentrations (top) and growth rates (bottom) for each 30-degree latitudinal zone.

解説

 1983年から2009年の期間で平均してみると、全ての緯度帯でほぼ1.6〜1.7 ppm/年の割合で濃度の増加が続いている。また、濃度年増加量には大きな年々変動がみられ、緯度帯により多少の違いはあるものの、1987/1988、1997/1998、2002/2003、2005、2007年にはおおむね全ての緯度帯で2 ppm/年を上回り、1989/1990、1992/1993(北半球高緯度では増加率が負の値となった)、1996年で1 ppm/年を下回るところがあった。総合すると、過去10年間の世界の平均濃度年増加量は1.88 ppm/年であったが、これは1990年代の平均濃度年増加量 約1.5 ppmより大きくなっている。この原因の一つとして、人為起源の二酸化炭素放出量の近年の増加が挙げられている(Canadell et al., 2007)。
 また、人為起源の放出以外に年々変動を引き起こす要因の一つとして、エルニーニョ南方振動(ENSO)が広く知られている。1982/1983、1986〜1988、1991/1992、1997/1998、2002/2003年はエルニーニョ現象、1984/1985、1988/1989、1995/1996、1998〜2000、2005/2006、2007/2008年はラニーニャ現象が発生した年であり、基本的にエルニーニョ現象発生時は高い濃度年増加量、ラニーニャ時は低い濃度年増加量とおおむね良い対応がみられる。しかし、2005/2006年はラニーニャ現象が起こったにもかかわらず、高い濃度年増加量が見られた。これは、世界の平均気温が高かった(北半球平均で2005年は過去最高、2006年は第3位)ためと考えられる。

背景となる一般的知識

エルニーニョ現象と二酸化炭素濃度年増加量との関係

 エルニーニョ現象は高温などの全球的な異常天候をもたらし、植物の呼吸活動の活発化や土壌有機物の分解作用の強化によって、陸上生物圏から大気への二酸化炭素の放出を強める(Keeling et al., 1995)。一方、東部赤道太平洋域には海洋深層の二酸化炭素濃度の高い海水の湧昇域があり、海洋から大気に二酸化炭素が放出されているが、エルニーニョ現象の発生にともなってこの湧昇が抑えられるために、大気への二酸化炭素放出は小さくなる。この2つが大気中の二酸化炭素の濃度変動に与える効果は相反するものであるが、後者が東部赤道太平洋に限られた現象であるのに対し、前者は世界的な現象であるため、前者のほうが大気中の二酸化炭素濃度の変動に与える影響が大きい(Dettinger et al., 1998)。
 このエルニーニョ現象発生時の二酸化炭素放出量の増加は、逆解法(第2.1.3節参照)による推定によって、主として熱帯で起こっていることがわかっている(Patra et al., 2005)。また、炭素同位体の観測結果でも、エルニーニョ現象にともなう二酸化炭素濃度の変動は、大気・海洋間での炭素循環の変動よりも、大気・陸上生物圏間での炭素循環の変動によってもたらされることが分かっている(Keeling et al., 1989; Nakazawa et al., 1993; Morimoto et al., 2000)。1997/1998年の大規模なエルニーニョ現象も、森林火災や干ばつを東南アジアに頻発させ、また全球的な高温をもたらし、陸上生物圏からの二酸化炭素の放出を強めたと考えられる(Watanabe et al., 2000; Patra et al., 2005)。

熱帯の陸上気温と二酸化炭素濃度増加率との関係

 上記のように、エルニーニョ現象発生時には陸上生物圏から大気への二酸化炭素の放出が強まる。これを詳しく調べるために、図2.1.2.3に1983〜2008年の熱帯域(北緯30度〜南緯30度)における濃度年増加量とエルニーニョ現象と関係の深い南方振動指数(SOI)、東部赤道太平洋域における海面水温(SST)の基準値からの偏差及び熱帯域の気温の変動をあわせて示す。SOI及びSST偏差の変動は熱帯域の濃度年増加量の変動と比較的良い対応関係にあり、エルニーニョ現象に強く関連していることを示唆しているが、ピナトゥボ火山噴火後の1992年頃はこの2つの指数の変動とは一致していない(図2.1.2.3上・中図)。一方、熱帯域の陸上気温の変動は、1992年頃も含めて熱帯域の濃度増加率の変動に対して、他の2つより良い一致を示している(図2.1.2.3下図)。南方振動指数、東部赤道太平洋の海面水温偏差、及び熱帯域の陸上気温平年偏差のそれぞれの指数と濃度年増加量との相関係数を、1983〜2008年について調査してタイムラグを調整した場合、それぞれ、0.32、0.41、0.70となった(タイムラグはそれぞれ濃度年増加量の、7か月遅れ、6か月遅れ、1か月早い)。したがって、熱帯域の濃度年増加量はエルニーニョ現象の影響による熱帯域陸上気温による熱帯生物圏の影響をより密接に受けていると考えられる。

30度緯度帯ごとの季節変動成分を除いた大気中の二酸化炭素濃度の経年変化

図2.1.2.3 熱帯域(30°N–30°S)における大気中の二酸化炭素濃度年増加量と南方振動指数(SOI)(上)、東部赤道太平洋(5°N–5°S、90°W–150°W)における海面水温(SST)の基準値からの差(中)、熱帯域(30°N–30°S)の陸上気温平年偏差(下)の変動。SSTの基準値は、前30年平均値のこと。陸上気温偏差は、JRA-25再解析データ(Onogi et al., 2007)(地表面気温)から求めた。実線が濃度年増加量、点線が各要素の5か月移動平均値を示す。
Fig. 2.1.2.3 Time series of atmospheric CO2 growth rates in the tropics (30°N–30°S) and its comparison with the Southern Oscillation Index inversed sign (top), SST deviation based on a sliding 30-year period in the east equatorial Pacific (5°N–5°S, 90–150°W) (middle), and land-surface temperature anomaly in the tropics calculated from JRA-25 reanalysis data (Onogi et al., 2007). The solid line shows the growth rate, and the dotted line shows each parameter (five-month running-mean).



世界の2009年の二酸化炭素濃度変動の緯度による違い

 温室効果ガス世界資料センター(WDCGG)に報告された2009年までの二酸化炭素濃度観測データを用いて、国内観測所のデータに対して行ったのと同様の濃度変動解析を行った。全球濃度の解析方法は第8.1節に記述する。

結果

 図2.1.2.4に、2009年の30度ごとの緯度帯別月平均濃度と参照濃度の時系列図を示す。北半球の季節変動振幅が大きい。また、北半球では、中高緯度での極小が8月であるのに対して低緯度では9月であるなど、中高緯度に比べて低緯度では季節進行が遅れている。これは、北半球中高緯度を中心に植物活動によって誘起される季節変動が、低緯度に伝搬するのに時間を要すること(Tanaka et al., 1987)や、雨季・乾季にともなって中緯度より遅れて季節進行する低緯度の植物活動の影響(Nemry et al., 1996)によるものと考えられる。

30度緯度帯ごとの大気中の二酸化炭素濃度の時系列

図2.1.2.4 30度緯度帯ごとの大気中の二酸化炭素濃度の時系列図(2009年)。実線は2009年の濃度、点線は参照濃度(第8.1節参照)。参照濃度の誤差範囲は±1σ(月別濃度と参照濃度の差の標準偏差)を示す。
Fig. 2.1.2.4 Time series of atmospheric CO2 concentrations for each 30-degree latitudinal zone in 2009. The solid line shows the monthly concentration, and the dotted line shows the reference concentration (see Section 8.1). Error bars indicate the range within ±1σ (the standard deviation of the difference between the monthly and reference concentrations).

解説

 大気中の二酸化炭素濃度の季節変動は、主として海洋表層水や陸上生物圏との間の炭素交換の季節変動によって生じる。北半球では陸上生物圏との交換が季節変動を決定する主要素となっている一方で、南半球では海洋からの影響も大きくなっている。
 そのような中、植物活動の舞台である陸域が少ないために夏季に集中する植物活動の影響が北半球ほどにははっきりしないが、南半球中高緯度では振幅が小さいながら植物活動に伴う季節変動が見られる。

背景となる一般的知識

北半球中高緯度での二酸化炭素濃度の季節変動の原因

 大気中の二酸化炭素濃度の季節変動は、主に陸上の生物活動の季節依存性に由来する。光合成や呼吸、それに土壌有機物の分解を含めた陸上生物圏の活動は夏季を中心に活発になる。この中で、光合成による吸収は日射に強く依存し、夏至近くを中心に比較的短い期間に集中して活発になるのに対して、呼吸や分解による放出は気温(あるいは地温)に依存して比較的緩やかに変化する。そのために、一般的には北半球夏季の前半は光合成が上回って濃度が下がり、夏季の終わりから濃度が上昇を始める。このほかの季節も呼吸や分解にともなって二酸化炭素を放出するが、気温の低い季節はその活動も低調となるため、濃度の増加は緩やかになる。




内容構成一覧

概要 | 基礎知識 | 最近の知見や話題 | 参考文献

日本における二酸化炭素濃度 | 二酸化炭素放出量の推定 | 北西太平洋の二酸化炭素濃度 | 北西太平洋の二酸化炭素関連物質 | 大気−海洋間の二酸化炭素交換量推定

温室効果ガスなどのGAW観測所 | 観測方法(大気二酸化炭素) | 較正(二酸化炭素) | 濃度傾向・全球濃度の解析 | 逆解法を用いた放出量解析 | 海洋気象観測船