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第1章 地球温暖化に関わる海洋の長期変化
1.3 海氷
1.3.2 オホーツク海の海氷の要約はこちら
平成18年3月7日
オホーツク海の海氷の変化は、地球温暖化に関わっているほか、北海道の気候や親潮の水質などにも影響を及ぼす。 ここでは、オホーツク海の海氷について、1970年の観測開始以来約35年間の長期変化傾向を診断する。
1970年代初めからのオホーツク海の海氷域面積は緩やかな減少傾向であり、網走で流氷が観測される期間も短くなる 傾向がある。しかし、長期的な変化よりも10年程度の周期の変動や年々の変動の振幅のほうが大きい。これは、 オホーツク海の海氷の大部分が、北部で生成して風や海流によって運ばれる流氷で構成されることから、 年々の大気の流れに大きく支配されるためである。オホーツク海の海氷域面積は北極域のように明確な減少傾向になく、 地球温暖化の影響がどの程度現れているかは明らかでない。
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図1.3.2-1 オホーツク海の平年の海氷分布 平年値は1971年〜2000年の30年平均値。 |
オホーツク海は海氷が存在する海としては、北半球で最も南にある海の一つである。これは、@オホーツク海は千島列島
などよって外洋から隔てられた縁海であり、アムール川から流れ込む大量の淡水などによってオホーツク海の表層に低塩分
の層が形成されているため、表面が冷却されたときに深い対流が起きにくいこと、Aオホーツク海の上をシベリアから
冷たい季節風が吹くこと、Bオホーツク海を反時計回りに流れる海流と北西の季節風により、海氷が南部および東部に
運ばれること、による。
オホーツク海の海氷は、11月初めころに結氷が始まり、翌年7月までには融解・消失する季節海氷である。平年の分布では、
海氷域が最も広がる2月下旬にオホーツク海の約75%が海氷に覆われる(図1.3.2-1)。北海道のオホーツク海沿岸では、
1月中旬に海氷が到来し、2月上旬に接岸する。その後、3月中旬から下旬にかけて離岸し、4月上旬から中旬には視界外に遠ざかる。
オホーツク海の海氷は、太陽放射の反射、海洋から大気への熱・水蒸気輸送の遮断により、北海道オホーツク海沿岸の気候に影響
を与えている。例えば、海面が流氷に覆われてくると、海面からの水蒸気の補給がなくなるため雲が発生しにくくなったり、海水の
熱が大気に伝わらなくなるため気温が低くなるといった影響がある。
海氷の影響は気候だけではない。海氷の底面でプランクトンが繁殖し、流氷とともに南下することで豊かな漁場を形成している
ことや、海氷が波浪の発達を抑えて塩害を少なくしていること、さらに近年盛んになった流氷観光など、海氷は北海道のオホーツク海
沿岸の各種産業や生活に深く関わっている。
また、結氷時に生成される低温で高塩分の重い海水が千島列島の海峡を通って流出し、北太平洋亜熱帯域に広く分布する低温・低塩
の北太平洋中層水(コラム「北太平洋中層水」参照)の起源となっているといわれている。
気象庁では1970年から、毎年12月から翌年5月まで、沿岸の観測地点や船舶および航空機による目視観測の結果と、流氷レーダー
および人工衛星による観測結果をもとに、オホーツク海の海氷域を解析している。解析では、5日ごとの海氷の有無および密接度
(ある海域における海氷の占める面積の割合)を求めている。本診断では1970年12月から2005年5月までのデータを使用する。
図1.3.2-2は、積算海氷域面積(前年12月から5月までのオホーツク海全域の5日ごとの海氷域面積を積算した面積)と、
各年(前年12月から5月)の年最大海氷域面積を1971年から時系列で示したものである。積算海氷域面積は各年の海氷勢力
の指標となる。
積算海氷域面積は1979年に最大値を記録した後、増減を繰り返しながら減少し、1996年に最小値を記録した。その後、
増加に転じ1998年から2003年まで6年連続で平年を上回った。2001年の積算海氷域面積は1979年と1980年に次ぐ第3位の値
であった。その後4年連続して減少し、2004年からは平年を下回っている。1971年からの傾向をみると、10年で平年値の
4.4%程度の割合で緩やかに減少しているが、10年程度の周期をもつ変動の振幅のほうが大きく、北極域の海氷域面積
(「1.3.1 全球の海氷」参照)のように、
近年になって頻繁に最小値が更新されるというような明確な減少傾向はない。
年最大海氷域面積も積算海氷域面積とほぼ同様に推移しており、1978年に観測開始からの最大(オホーツク海の98%)、
1984年に最小(オホーツク海の55%)を記録し、2001年は1978年に次ぐ第2位の値となった。1971年からの傾向をみると、
10年で平年値の3.4%程度の割合で緩やかに減少している。
図1.3.2-3は、月別積算海氷域面積(オホーツク海全域の5日ごとの海氷域面積を月ごとに足し合わせた面積)の規格化
した偏差を示したものである。1971年からの傾向をみると、1、2、12、5、4月の順に減少の割合が大きく、3月は減少傾向がなく、
ほとんど一定である。これらは、寒候期の初めの結氷や海氷の広がりが遅れている、3月には平年並の広がりとなる、
また、寒候期の終わりの海氷の融解や退行が早まっている、という傾向を示している。
次に、北海道のオホーツク海沿岸にある網走での流氷の推移をみる。ここでいう流氷とはオホーツク海中・北部から
北海道沿岸に南下してくる海氷を指している。網走では沿岸の海水が凍結してできる海氷はわずかであり、観測される
海氷の大部分は流氷である。
図1.3.2-4は網走の流氷期間(流氷初日(初めて流氷が観測された日)から流氷終日(最後に流氷が観測された日)までの日数)
と流氷初日・終日の平年差を示したものである。流氷期間は少しずつ短くなっている(10年あたり5日程度)。
しかし、長期的な変化に比較して年々の変動の振幅が大きい。流氷初日と流氷終日の推移をみると、
オホーツク海全体では海氷の拡大が遅くなる傾向があるものの、流氷初日はほとんど変わっていない
。一方、流氷終日は早くなっている(10年あたり4日程度)。
オホーツク海の海氷域面積と網走沿岸の流氷の関係をみると、寒候期の積算海氷域面積と流氷期間の相関係数は0.51、
1月の積算海氷域面積と流氷初日の相関係数は0.35、4月の積算海氷域面積と流氷終日の相関係数は0.24、
となっておりいずれも相関関係ははっきりしない。
1970年代の観測開始以降、オホーツク海の海氷域面積には緩やかな減少傾向があり、また、網走の流氷期間には短くなるという傾向がある。
しかし、これらの長期的な変化よりも、海氷域面積については10年程度の周期の変動の振幅のほうが、また網走の流氷期間については年々変動
の振幅のほうが大きく、北極域の海氷域面積のような明確な減少傾向ではない。このため、現段階では地球温暖化の影響を判断する
ことは難しい。
オホーツク海と北極域の海氷域面積の変化傾向の違いは、オホーツク海の海氷の大部分がオホーツク海北部で生成され、
それが風や海流に流されて南下する流氷であることによる。オホーツク海の海氷の分布は、気温だけでなく、風の状況に大きく左右
されると考えられている(Kimura and Wakatsuchi,1999,2004)。実際、厳冬の海氷拡大期であっても、発達した低気圧の東側で
吹く強い南東風によって海氷が押し戻されて海氷域面積が減少することがしばしばある。また、流氷の南下はサハリンの東を南下する
東樺太海流によるところが大きく、オホーツク海全体の海氷域がかなり狭くても北海道沿岸の流氷域は平年並であることもある。
オホーツク海の海氷の総量がどのように変動しているかを把握するためには、氷厚のデータが必要である。Tateyama et al.(2002)
により、人工衛星のマイクロ波放射計の観測値から氷厚を推定する技術が開発されているが、その検証のために必要な氷厚の現場観測は
特定の期間・場所で得られているだけであり、オホーツク海全体の海氷の総量がどう変動しているかについての共通認識は現段階では
得られていない。
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