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日本海の水深約300mより深い層に存在する、水温0〜1℃、塩分34.1程度のほぼ均質な水は「日本海固有水」と呼ばれています。日本海の海底地形は最深部では水深が約3800mありますが、隣接する海とつながる海峡の水深は概ね50〜140m程度と浅く、海水交換は表層に限られていることから、日本海固有水は孤立した水塊として分布しています。日本海固有水は、日本海北部の大陸に近い海域で、冬季に海面で強い冷却を受けて密度が大きくなった海水が沈み込む、鉛直対流により形成されると考えられています。日本海固有水の溶存酸素量は、隣接した太平洋の深層と比べても明らかに多く、酸素の豊富な海面の水が対流により補給されたことを示しています。
日本海固有水の形成
従来、日本海固有水は水質がほぼ均一と考えられていましたが、今日では、水深によってポテンシャル水温(水圧による水温上昇分を除いた水温)や溶存酸素量などの水質が異なり、いくつかに分類できることがわかってきました。例えば、水深約800〜1000m付近を境にして上部日本海固有水と深層水に分けられ、上部日本海固有水は深層水に比べると溶存酸素量が高いという特徴があります(Senjyu and Sudo,1994)。また、日本海盆および大和海盆では水深約2000m付近を境にして深層水の下に底層水が存在しており、底層水は水温が鉛直方向に一様であることがわかってきました(Gamo and Horibe,1983)。
日本海固有水の形成域については、研究者によりその範囲に多少の違いはありますが、深層水は下図に示すとおり日本海北西部のウラジオストク沖付近の海域で形成されると考えられています(Sudo,1986;Seung and Yoon,1995)。また形成された深層水の循環については、Senjyu et al.(2005)は下図に示すとおり日本海全体で反時計回りの循環があることを示し、また日本海盆・大和海盆・ウルルン海盆ではそれぞれの海盆の中で反時計回りの循環があることを示しています。
なお、上部日本海固有水の形成域としては、北緯40度〜43度の東経136度以西の海域(Senjyu and Sudo,1994)などが考えられ、形成された上部固有水は日本海盆西部・大和堆西方を経て大和海盆に入る(Senjyu and Sudo, 1994)と考えられています。
平均的な流向分布から求めた日本海深層循環の概念図(Senjyu et al., 2005)
図中の形成域については、深層水の形成域と考えられている海域を原図に付加したものです。
1965年以降の気象庁の海洋観測結果から、日本海固有水の変動が明らかになってきました。大和海盆西部および日本海盆東部の水深1000m以深の深層水では、ポテンシャル水温の上昇と溶存酸素量の減少が続いています。これらのことは、冬季の日本海北西部で水深2000mに達する鉛直対流が起こりにくくなり、海面で冷却された酸素豊富な水の沈み込みが深層まで達せず、これにより日本海の深層循環が弱まり、深層水のポテンシャル水温が上昇していること、海面から酸素が補給されず消費が続いていることを示していると考えられます。
このような日本海固有水の変動については、IPCC第4次評価報告書第1作業部会報告書でも引用され、他の海洋と隔離された閉鎖的な海盆に存在する日本海固有水は、海面からの変動の応答が大洋の深層水よりも速く、地球温暖化の影響を受け易いことが指摘されています。