気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第一作業部会による第三次評価報告書は,これまでに公表された評価報告を踏まえた上で,気候変化に関する過去5年間の調査研究から得られた新たな成果を取りこんでいる。同報告書のとりまとめと査読には,多くの国から数百人の科学者が参加した。
この政策決定者向けの要約(SPM)は,2001年1月に上海において,各国政府によって承認されたものであり,気候システムに対する理解の現状を述べるとともに,予測される将来の変化とその不確実性の見積もりを示したものである。詳細は,この要約の元になる報告書本文に記述されている(出典注釈により,報告書本文の引用箇所を示す)。
観測成果が増えたことによって,気候システムにおける温暖化しつつある世界及びその他の変化についての全体像が明らかになっている。
第二次評価報告書の公表以降,現在及び過去の気候に関する新たな研究によりもたらされたデータ,データ解析の進歩,データに関するより厳密な品質評価及び異なる出所からのデータ間の比較を通じて,気候変化に関する理解が大きく進展した。
地球の平均地上気温は,20世紀に約0.6℃上昇した。
- 地球の平均地上気温(陸域における地表付近の気温と海面水温の平均)は,1861年以降上昇している。20世紀中の気温の上昇量は,0.6±0.2℃(図SPM-1a)であった。この値は,1994年までを対象とした第二次評価報告書の見積もりより約0.15℃高い。これは,新たに加わった期間(1995〜2000年)が比較的高温であったこと,データ処理の手法が改良されたことによるものである。これらの数値には,都市のヒートアイランド効果を含む様々な補正がなされている。観測データによると,過去に大きな変動(例えば,1910〜1945年及び1976〜2000年の二つの期間に発生した20世紀中に起こった温暖化の大部分)があったことが分かる。
- 地球全体で見た場合,1861年以降の観測機器による観測記録の中では,1990年代は最も暖かい10年間であり,1998年は最も暖かい年であった可能性がかなり高い(図SPM-1a)。
- 北半球における[直接測定以外の]代替データを用いた新たな解析によると,20世紀における気温の上昇は,過去1000年のどの世紀よりも大きかった(図SPM-1b)可能性が高い。また,北半球では,1990年代は最も暖かい10年間であり,1998年は最も暖かい年であった可能性が高い。しかし,現在より1000年以上前の年平均気温や,1861年より前の南半球の大部分における状況は,入手し得るデータが少ないためよく分かっていない。
- 平均すると,1950年から1993年までの期間に,陸上における夜間の日最低気温は,10年当たり約0.2℃上昇した。これは,日中に現れる日最高気温の上昇率(0.1℃/10年)の約2倍になる。このことは,中・高緯度の多くの地域で非凍結期間を長くしている。この期間の海面水温の上昇量は,陸上における平均気温の上昇量の約半分である。
気温は,高さ8kmまでの大気において,過去40年間上昇してきた
- 1950年代後期以降(高層気象観測用のラジオゾンデによる十分な観測がある期間),高さ8kmまでの大気及び地上における地球の気温はともに10年当たり0.1℃上昇してきた。
- 1979年に衛星による観測記録が始まって以降,衛星と高層気象観測用のラジオゾンデの観測記録はともに,高さ8kmまでの大気の地球の平均気温は10年当たり+0.05±0.10℃変化したのに対し,地球の平均地上気温は10年当たり+0.15±0.05℃と著しく上昇したことを示している。この気温の上昇量の差は,統計上有意である。また,この差は,主に熱帯と亜熱帯の地域で生じている。
- 高さ8kmまでの大気と地表付近の大気とでは,成層圏オゾンの減少,エーロゾル(大気中の微粒子)やエルニーニョ現象などによって異なる影響を受けている。このため,それぞれの気温トレンドは,短期間(例えば20年間)ならば互いに異なることがあり得ると考えることは,物理的に妥当である。加えて,空間的サンプリングの手法でもトレンドの差のいくらかを説明できるが,この差は十分には解明されていない。
雪氷面積は減少している。
- 衛星データによると,1960年代後期以降,積雪面積の約10%が減少した可能性がかなり高く,また,地上における観測によると,20世紀中に,北半球の中・高緯度域の湖沼や河川が氷で覆われる年間の日数がおよそ2週間減った可能性が,かなり高い。
- 20世紀には,極以外の地域で山岳氷河の後退が広範に見られた。
- 北半球の春及び夏の海氷面積は,1950年代以降,およそ10〜15%減少した。この数十年,晩夏から初秋にかけての期間,北極の海氷の厚さは約40%減少し,冬の海氷の厚さもかなりゆっくりではあるが減少した可能性が高い。
地球の平均海面水位は上昇し,海洋の貯熱量は増加した
- 潮位計データによると,20世紀に,地球の平均海面水位は0.1〜0.2m上昇した。
- 海洋の表層水温観測データが適切に得られる1950年代後期以降について,地球の海洋貯熱量は増加してきた。
変化は,気候におけるこれ以外の主要な側面にも現れている
- 降水量は,北半球の中・高緯度の陸域の大部分において,20世紀に,10年当たり0.5〜1%増加した可能性がかなり高く,さらに,熱帯(北緯10度から南緯10度)の陸域において,降水量が10年当たり0.2〜0.3%増加した可能性が高い。熱帯域における降水量の増加は,過去20〜30年においては明瞭でない。また,降水量は,北半球の亜熱帯(北緯10度から30度)の陸域の大部分で,20世紀中に10年当たりおよそ0.3%減少した可能性が高い。北半球とは対照的に,南半球では,広くとった緯度平均の中に,これに匹敵する系統的な変化は検出されていない。海洋上の降水のトレンドを認めるには十分なデータがない。
- 20世紀後半,北半球中・高緯度域においては,大雨の発現頻度が2〜4%増加した可能性が高い。大雨事例の増加は,大気中の水蒸気,雷雨活動,大規模な嵐の活動の変化など,多くの原因から生じ得る。
- 20世紀中に中・高緯度の陸域における雲量は2%増加した可能性が高い。このトレンドは,大部分の地域において観測された,気温の日較差の減少と良い相関がある。
- 1950年以降,極端な低温の発現頻度は減少し,極端な高温の発現頻度は若干増加した可能性がかなり高い。
- エルニーニョ現象(訳注:エルニーニョ現象やラニーニャ現象は,熱帯及び亜熱帯の大部分と中緯度帯のいくつかの地域においても,降水や気温の地域的変動に影響する)は,1970年代中期以降,それ以前の100年に比べて,その発現頻度,持続期間及び強度が増大している。(訳注:原文は,Warm episodes of the El Niño-Southern Oscillation (ENSO) phenomenon(エルニーニョ・南方振動(ENSO)の暖水期)であるが,我が国では,これを「エルニーニョ現象」と表現することが一般的であるため,この表現を用いる。なお,ENSOの冷水期は,「ラニーニャ現象」と表現する。)
- 20世紀(1900〜1995年)において,厳しい干ばつあるいは著しい多雨が発生した陸上の地域は,若干増加した。多くの地域で,これらの変化は,ENSOがエルニーニョ現象側により多く偏るような十年及び数十年規模の気候の変動に支配されている。
- アジア及びアフリカの一部のように,干ばつの発現頻度と厳しさが,ここ数十年で増加したところがある。
気候における主要な側面のいくつかは変化していないように見える
- 地球のいくつかの地域,主に南半球の海洋と南極大陸の一部では,この数十年温暖化していない。
- 南極の海氷面積は,信頼できる衛星観測が得られている1978年以降,有意なトレンドは見られない。
- 地球全体で見た場合,熱帯低気圧及び温帯低気圧の強さや発生頻度の変化は,10年〜数十年変動に支配され,20世紀においては有意なトレンドは見られない。低気圧の活動の変化については,特に温帯域において相反する解析結果があることから,明確な結論を導くことは難しい。
- 竜巻,発雷日,あるいは,ひょうの発現頻度の系統的な変化については,限られた地域の解析からでは明らかでない。
人間活動による温室効果ガス及びエーロゾルの排出は引き続き大気を変化させ,気候に影響を与える
気候の変化は,気候システム内部の変動と外部因子(自然起源と人為起源の両者)により起こる。気候に対する各外部因子の影響については,放射強制力という概念を使っておおよそ比較しうる。温室効果ガス濃度の増加などによって生じる放射強制力は,正の値を持ち,地表を暖める方向に働く。ある種のエーロゾルの増加によって生じる放射強制力は負の値を持ち,地表を冷やす方向に働く。太陽放射の変化や火山噴火のような自然起源の因子も放射強制力をもたらす。これらの気候の変動因子及びその時間変化を特徴づけること(図SPM-2参照)が自然の変動と関連させて過去の気候変化を理解し,将来起こりうる気候変化を予測するためには、必要である。図SPM-3は,大気組成物質の濃度増加及びその他のメカニズムによる放射強制力の現在の見積もりを示す。
人間活動に伴い,大気中の温室効果ガスの濃度及びその放射強制力は増加を続けている
- 大気中の二酸化炭素(CO2)濃度は,1750年以降31%増加した。過去42万年間で現在のCO2濃度を超えたことはなく,過去2000万年間でも超えなかった可能性が高い。現在のCO2濃度の増加率は,少なくとも過去2万年間で例のない高い値である。
- 過去20年間の人為起源によるCO2の大気への排出のうち,約4分の3は化石燃料の燃焼によるものである。残りの大部分は土地利用の変化,とりわけ森林減少によるものである。
- 今のところ,人為起源によるCO2の排出量の約半分が海洋と陸域で吸収されている。1990年代,人為起源CO2の陸域での吸収は,森林減少によるCO2の放出を上回っている可能性がかなり高い。
- 過去20年で,大気中のCO2濃度の年増加率は,約1.5ppm(0.4%)である。1990年代の年々の増加量は,0.9ppm(0.2%)から2.8ppm(0.8%)の間で変動した。この変動の大部分は,気候の変動(例えばエルニーニョ現象)が陸域と海洋でのCO2の吸収・放出に及ぼす影響によるものである。
- 大気中のメタン(CH4)濃度は,1750年以降1060ppb(151%)増加し,さらに増加を続けている。過去42万年間のあいだで,現在のCH4濃度を上回ったことはない。CH4濃度の年間の増加は,1980年代と比べ1990年代には緩やかで,かつ変動に富んだものとなった。現在のCH4排出量の半分強が,人為起源(例えば,化石燃料の使用,畜牛,米作,ゴミの埋立)である。これに加え,一酸化炭素(CO)の排出がCH4濃度の増加の原因になっていることが,近年わかってきた。
- 大気中の一酸化二窒素(N2O)濃度は,1750年以降,46ppb(17%)増加し,現在も増加を続けている。少なくとも過去1000年間で,現在のN2O濃度を上回ったことがない。現在のN2O排出量の約3分の1は,人為起源(例えば,農耕地土壌,畜牛,化学工業)である。
- オゾンを破壊するとともに,温室効果も持つガスであるハロカーボン(例えば,CFCl3,CF2Cl2)の多くは,その大気中濃度が,1995年以降,モントリオール議定書及びその改正による規制の下での排出削減に呼応して,増加が緩やかになるか,あるいは減少している。しかしながら,これらの代替物質(例えば,CHF2Cl,CF3CH2F)もまた温室効果ガスである上,この他の合成化合物のなかにも温室効果ガスがあり(例えば,パーフルオロカーボン(PFCs)や六フッ化硫黄(SF6)),これらの物質の大気中濃度も現在増加している。
- 1750年から2000年までの温室効果ガス全体の増加による放射強制力は2.43Wm−2と見積もられる。この内訳はCO2 1.46Wm−2,CH4 0.48Wm−2,ハロカーボン 0.34Wm−2,N2O 0.15Wm−2である(図SPM-3。図には不確実性も示している)。
- 1979年から2000年までに観測された成層圏オゾン層の破壊に起因する放射強制力は,負の値(−0.15Wm−2)であったと見積もられる。現在のハロカーボンの規制が完全に実施されると仮定すれば,ハロカーボンによる放射強制力は低減することが見込まれるだけでなく,21世紀にオゾン層が回復するにつれて,成層圏オゾンの破壊で生じる負の値の放射強制力もゼロに近付く見込である。
- 対流圏のオゾン総量は1750年以降36%増加したと見積もられている。これは,いくつかのオゾン生成ガスの人為起源による排出によるものが主であり,放射強制力にして0.35Wm−2に相当する。オゾンの放射強制力は地域によって大きく変わり,CO2のような長寿命の温室効果ガスと比べて,排出量の変化にすばやく応答する。
人為起源のエーロゾルは短寿命であり,大部分は負の放射強制力をもたらす
- 人為起源のエーロゾルは,主として化石燃料とバイオマスの燃焼から発生している。これらの発生源は,また,大気の質の悪化や酸性沈着にも関与している。
- 第二次評価報告書以降,個々の種類のエーロゾルが放射に果たす直接的な役割についての理解が進んできた。エーロゾルによる直接的な放射強制力は,例えば,硫酸塩では−0.4Wm−2,バイオマス燃焼によるエーロゾルでは−0.2Wm−2,化石燃料燃焼による有機炭素では−0.1Wm−2,化石燃料燃焼によるすすでは+0.2Wm−2と見積もられる。エーロゾルの直接的な効果全体やその時間変化の定量化に対する信頼性は,先にあげた温室効果ガスの場合に比べてかなり低い。また,エーロゾルの分布は,地域によりかなり変動するとともに,排出量の変化にすばやく応答する。
- エーロゾルは,直接的な放射強制力に加え,雲への効果を介して,間接的な放射強制力も持っている。この間接的な効果は,その度合は非常に不確実であるものの,負の値の放射強制力であり,現在,この効果に関して,より多くの事実が集まっている。
自然起源の因子は,過去100年間では放射強制力にあまり影響していない
- 太陽放射の変化に起因する放射強制力は,1750年以降で約+0.3Wm−2と見積もられ,その大部分は20世紀前半に生じた。1970年代後期以降,衛星により,11年の太陽活動周期に伴う小さな振動を観測している。気候に及ぼす太陽活動の影響を増幅させるメカニズムが提案されてきたが,今のところ厳密な理論や観測による裏付けを欠いている。
- 爆発的な火山噴火からもたらされる成層圏エーロゾルに起因する放射強制力は負の値であり,数年間持続する。いくつかの大規模な噴火が1880年から1920年にかけてと,1960年から1991年にかけて起こった。
- 2つの主要な自然起源の因子(太陽変動と火山性エーロゾル)による放射強制力の複合的な変化は,過去20年間,そしておそらく過去40年間は,負の値であったと見積もられる。
将来の気候を予測するモデルの能力の信頼性が増してきた
フィードバックと地域的特徴を詳細に見積もるために,物理に基づいた高度な気候モデルが必要である。そのような気候モデルは,気候のすべての側面を再現できるわけではなく(例えば,地上−対流圏温度差について,観測された1979年以降のトレンドを未だ十分に説明できない),とりわけ,雲,そして雲と放射やエーロゾルとの相互作用に関しては不確実性がある。それにもかかわらず,気候モデルが一定の空間及び時間スケールで気候を一定の性能で復元したことから,将来の気候に関する有用な予測を提供するモデルの能力に対する信頼度は,改善されてきている。
- 水蒸気,海氷力学及び海洋熱輸送など,気候の諸過程の理解とその気候モデルへの組込みは進展した。
- 最近のいくつかのモデルは,以前のモデルで用いられていた,大気と海洋の間で交換される熱量や水に関する人工的な調節をしなくとも,現在の気候を十分復元している。
- 自然起源及び人為起源の放射強制力の見積もりを含むモデル計算では,20世紀に観測された大きなスケールの地上気温の変化を復元している(図SPM-4)。しかしながら,いくつかのさらなる過程や放射強制力からの寄与は,モデルに取り込まれていないこともありうるが,モデルと観測は,大きなスケールで一致しており,このことは与えられた排出シナリオの下で次の数十年間に予測される気温上昇率をモデルによりチェックすることを可能にしている。
- 過去の気候の特定の期間についてだけではなく,ENSO,モンスーン及び北大西洋振動のモデルによる再現性がいくつかの面で改善された。
近年得られた,より確かな事実によると,最近50年間に観測された温暖化のほとんどは,人間活動に起因するものである
第二次評価報告書では,「事実を比較検討した結果,識別可能な人為的影響が地球全体の気候に現れていることが示唆される」と述べられた。同報告書はまた,人為起源のシグナルは,依然として自然起源の気候変動というバックグランドから読み取れる程度のものであると述べた。同報告書の公表以降,特に,異なる外的影響に対する応答を識別し定量化することに関して不確実性が減少した点で進歩があった。同報告書で確認された不確実性の多くは,いまだにある程度残っているものの,最新の結論は,新たな事実と理解の進展によって裏付けられている。
- より長期間の気温の記録が,より綿密に調べられるとともに,新しいモデルによる変動の見積もりがなされている。現在のモデルの見積もりによれば,過去100年にわたる温暖化が,気候システムの持つ内的な変動のみによる可能性はかなり低い。復元された過去1000年間の気候データ(図SPM-1b)によっても,この温暖化は異常であったことが示されるとともに,これが自然起源のみによる可能性は低いことも示される。
- 自然起源及び人為起源の放射強制力に対する気候の応答が新たに見積もられ,さらに新しい検出技術が適用された。検出及び原因特定に関する研究により,人為起源のシグナルが,過去35〜50年間の気候の記録のなかに一致して見出されている。
- 自然起源の放射強制力のみに対する応答(すなわち,太陽放射の変動や火山噴火に対する応答)を調べるシミュレーションでは,20世紀後半の温暖化は説明できない(例えば図SPM-4a参照)。一方,このシミュレーションによると,自然起源の放射強制力が20世紀前半に観測された温暖化に寄与していたことと考えられる。
- 人為起源の硫酸エーロゾルと自然起源の因子(火山や太陽放射)による放射強制力の不確実性にもかかわらず,過去50年の温暖化は人為起源の温室効果ガスによるものだと識別できる。人為起源の硫酸エーロゾルによる放射強制力は,不確実性はあるが,この期間は負の値であり,それゆえ温暖化を説明できない。この期間のほとんどでは,自然起源の放射強制力の変化は負の値と見積もられ,この変化によって温暖化を説明できる可能性は低い。
- 現在では,モデルで再現された変化と観測記録を比較する気候変化の検出及び原因特定の研究では,外的な放射強制力に対するモデル応答の度合の不確実性,特に気候感度の不確実性によるものを考慮する必要がある。
- これらの研究の大部分は,最近50年では,見積もられた温室効果ガス濃度の増加だけによる気温の上昇量と上昇率は,観測された気温の上昇量と上昇率に相当するか,それよりも大きいことを見出した。さらに,温室効果ガスと硫酸エーロゾルの両方を考慮したモデルによる見積もりのほとんどがこの期間の観測からの情報と矛盾していない。
- 図SPM-4cで示されるように,上記すべての人為起源及び自然起源の放射強制力の因子を複合させると,過去140年間のモデル計算と観測が最もよく一致することが分かった。このことは,観測された変化は,モデルに組み込まれている放射強制力によって表せることを示しているが,これ以外の放射強制力も寄与する可能性を排除するものではない。
新しい事実に照らすと,残された不確実性を考慮しても,過去50年間に観測された温暖化の大部分は,温室効果ガス濃度の増加によるものであった可能性が高い。
さらに,20世紀の温暖化は,海水の熱膨張と陸氷の広範な消失により,観測された海面水位上昇にかなり寄与した可能性がかなり高い。現在,観測データとモデルによる予測とは,20世紀の海面水位上昇に顕著な加速が見られないことについて,様々な不確実性の範囲内で矛盾していない。
21世紀を通して,人間活動が大気組成を変化させ続けると見込まれる
IPCC排出シナリオに関する特別報告書(SRES)に掲載された排出シナリオをもとに,モデルを使用して,温室効果ガスとエーロゾルの大気中濃度,さらには将来の気候について予測を行った(図SPM-5)。SRESシナリオは,第二次評価報告書で用いられたIS92シナリオに最新の状況を反映させたもので,図SPM-5では,比較のためにIS92シナリオによる予測が示されている。
温室効果ガス
- 化石燃料の燃焼によるCO2の排出が,21世紀の間,大気中のCO2濃度のトレンドを支配することはほぼ確実である。
- 大気中のCO2濃度が増加するにつれて,人為起源のCO2が海洋及び陸域により取り込まれる割合が減少しはじめることになる。モデルでは,陸域と海洋における気候システム内のフィードバックの正味の効果として,海洋及び陸域の両方でCO2の取り込み量が減少するため,大気中のCO2濃度はさらに増加すると予測される。
- 炭素循環モデルによると,2100年までに大気中のCO2濃度は,図SPM-5bに示すとおり,SRESシナリオの代表例として用いたシナリオに対し540〜970ppmになると予測されている(1750年の濃度である280ppmよりも90〜250%の増加)。この予測結果は,陸域及び海洋についての気候システム内の種々のフィードバックを考慮したものである。特に陸域生態系についての気候フィードバックに関して不確実性があるため,シナリオ毎に−10〜+30%の誤差が考えられることから,全体の予測幅は490〜1260ppm(1750年の濃度よりも75〜350%の増加)となる。
- 土地利用の変化が,大気中のCO2濃度に影響することもあり得る。もし,歴史上のこれまでの土地利用の変化に伴って放出された炭素のすべてが,例えば再植林によって21世紀中に陸域生態系に戻されると仮定すると,CO2濃度は40〜70ppm減少する計算になる。
- CO2以外の温室効果ガスの濃度が2100年までにどのくらい変化するかについてのモデルの計算結果は,SRESシナリオの代表例として用いたシナリオ毎に大きく異なり,2000年での値を基準とした場合,CH4の変化量は−190〜+1970ppb(現在の濃度は1760ppb),N2Oは+38〜+144ppb(現在の濃度は316ppb),対流圏のオゾン総量は−12〜+62%であり,ハイドロフルオロカーボン類(HFCs),パーフルオロカーボン類(PFCs)及び六フッ化硫黄(SF6)の濃度については,非常に広い幅で予測されている。対流圏オゾン総量が,シナリオによってはCH4と同程度の放射強制力を持つとの結果が出ており,北半球の大半の地域では,現行の大気保全の目標の達成が脅かされかねない。
- 温室効果ガスやその濃度に影響を及ぼすガスの排出を削減させることは,放射強制力を安定化させる上で必要となる。人為起源の温室効果ガスで最も重要なCO2については,例えば,炭素循環モデルによる計算によると,大気中のCO2濃度を450,650及び1000ppmで安定化させるためには,人為起源のCO2の排出量をそれぞれ数十年,約100年及び約200年以内に1990年のレベル以下にした上で,その後着実に減少させ続けることが必要となる。最終的には,CO2の排出量を現在に比べてごくわずかなレベルにまで減少させる必要がある。
エーロゾル
- SRESシナリオでは,人為起源のエーロゾル(例えば図SPM-5cに示す硫酸エーロゾル,バイオマス起源エーロゾル,黒色炭素エーロゾル及び有機炭素エーロゾル)の量が,化石燃料の使用量や汚染物質の排出抑制に関する政策次第で増加または減少する可能性が,考慮されている。さらに,自然起源のエーロゾル(例えば海塩,砂ぼこり,及び硫酸及び炭素エーロゾルの生成に影響を及ぼす放出物)は,気候変化の結果のひとつとして増加することが予測されている。
21世紀における放射強制力
- SRESシナリオのうち代表例として用いられたシナリオではCO2による放射強制力の割合が,全体の半分を少し超える程度から約4分の3にまで増加しつつ,2000年を基準とした場合,温室効果ガスによる地球の平均放射強制力は,21世紀全体にわたって増加し続けることになる。エーロゾルによる直接的及び間接的な放射強制力を合わせたものの変化は,CO2に比べて小さな変化になると予測される。
地球の平均気温と平均海面水位は,IPCC SRESシナリオにもとづく予測結果のすべてにおいて,上昇する
将来の気候の予測においては,モデルは将来ばかりでなく過去の温室効果ガスとエーロゾルの排出を取りいれている。したがって,予測結果は,現在までの温暖化の見積もりと過去の排出が将来の温暖化に及ぼす影響をも含んでいる。
気温
- 地球の平均地上気温は1990年から2100年までの間に1.4〜5.8℃上昇すると予測される(図SPM-5d)。これらの結果は,いくつかの気候モデルを用いた,35個のSRESシナリオによるすべての予測値の範囲である。
- 予測される気温の上昇量は,6通りあるIS92シナリオに基づく第二次評価報告書のときの上昇量(1.0〜3.5℃)よりも大きくなっている。予測された気温の上昇量が高くなり,また,その予測の幅が広がったのは,主として,SRESシナリオにおける二酸化硫黄の排出量の予測がIS92シナリオに比べて下方修正されていることによる。
- 予測された気温上昇率は,20世紀に観測されたものよりもはるかに大きく,古気候のデータから,少なくとも過去10,000年間のあいだにも観測されたことがないほどの大きさである可能性がかなり高い。
- 2100年まででは,ある一つのシナリオを用いて複数の気候モデルで計算した地上気温の予測による幅は,一つのモデルでさまざまSRESシナリオを用いて計算した気温の予測幅と同程度である。
- 現在観測されている気温上昇率は,気候感度に不確実性はあるとしても,ある排出シナリオの下で予測される応答を制約する値として,今後20〜30年については利用できる。この方法は,この先20〜30年は,IS92aシナリオの下では人為起源の温暖化が10年間に0.1〜0.2℃の範囲に入る可能性が高いことを示唆しており,この範囲は,図SPM-5dで使われた簡便なモデルの予測幅とほぼ一致している。
- 最近の気候モデルによる予測では,ほとんどすべての陸域で地球の平均よりも早く気温が上昇し,特に北半球の高緯度で寒候期に顕著である可能性がかなり高い。顕著なのは,北アメリカの北部,アジアの北部と中央部での温暖化で,これらの地域では,地球の平均よりも40%以上の大きな温暖化が予測される。一方,夏のアジアの南部と南東部,冬の南アメリカの南部では,地球の平均よりも小さな上昇幅となる。
- 最近の海面水温についてのトレンドとして,太平洋熱帯域でエルニーニョ現象的な変化が強まり,海面水温は東部で西部に比べてより上昇し,これに伴って降水域は東へ移っているが,多くのモデルでこれらの傾向が続くと予測される。
降水量
- 気候モデルのシミュレーションによると,地球の平均水蒸気量と平均降水量は,多くのシナリオで21世紀中は増加すると予測される。21世紀後半までに,北半球中・高緯度や南極で冬の降水量が増加する可能性が高い。低緯度の陸上では,増加する地域と減少する地域の両方がある。平均降水量の増加する地域の多くでは,降水量の年々の変動も大きくなる可能性がかなり高い。
極端な現象
表1は,気象や気候の極端な現象について,20世紀後半に観測された変化(左欄)と21世紀に予測される変化(右欄)の信頼度を評価したものであるa。この評価は,よく使われるシナリオのすべてに対して将来予測の物理的な妥当性だけではなく,観測データの解析やモデルの研究成果にも基づいており,さらに専門家の判断に基づいている。
表1 極端な現象について,観測された変化と予測される変化の信頼度の見積もり
| 観測された変化の信頼度(20世紀後半) |
現象の変化 |
予測される変化の信頼度(21世紀) |
| 可能性が高い |
ほとんどすべての陸域で最高気温が上昇し,暑い日が増加する |
可能性がかなり高い |
| 可能性がかなり高い |
ほとんどすべての陸域で最低気温が上昇し,寒い日,霜が降りる日が減少する |
可能性がかなり高い |
| 可能性がかなり高い |
大部分の陸域で気温の日較差が縮小する |
可能性がかなり高い |
| 多くの地域で可能性が高い |
陸域で熱指数(heat index)が大きくなる |
ほとんどの地域で可能性がかなり高い |
| 北半球の中・高緯度の陸域の多くで可能性が高い |
強い降水現象が増加するb |
多くの地域で可能性がかなり高い |
| 可能性が高い地域もある |
夏の大陸で乾燥しやすくなり,干ばつの危険性が増加する |
干ばつの危険性が増加する 中緯度の大陸内部の大部分で可能性が高い (その他の地域では,一致した予測となっていない) |
| 入手可能なわずかな解析では観測されていない |
熱帯低気圧の最大風速が増大するc |
いくつかの地域で可能性が高い |
| 評価するに十分なデータが存在しない |
熱帯低気圧に伴う平均降水量と最大降水量が増加するc |
いくつかの地域で可能性が高い |
a 詳細は第2章(観測),第9,10章(予測)を参照。
b その他の地域では,十分なデータが存在しないか,矛盾した解析結果が出ている。
c 熱帯低気圧の位置や発生頻度についての,過去や将来の変化は不確実である。
- その他の極端な現象でも,環境や社会に対して重要な影響があるものも多くあるが,現在のところ最近の傾向を評価するのに十分な情報がない。また,現在の気候モデルは,極端な現象の確実な予測を行うには空間解像度が不足している。例えば,雷雨,竜巻,ひょうや落雷などの非常に小さなスケールの現象は,気候モデルでは再現されていない。
エルニーニョ現象
- 熱帯太平洋におけるエルニーニョ現象の頻度,強度,空間的なパターンが将来どう変化するかの予測については,複雑なモデルにおいてエルニーニョ現象の適切な復元が不十分なため,その信頼度は高くない。現時点では,この先100年間は,エルニーニョ現象の強度は,ほとんど変わらないか小さな増加にとどまると見込まれる。
- エルニーニョ現象の強度はあまり変わらないか全く変わらないとしても,地球温暖化により,より極端な乾燥や大雨が増加し,様々な地域でエルニーニョ現象に伴って生じる干ばつや洪水などの危険性が増加する可能性が高い。
モンスーン
温室効果ガス濃度の増加に伴う温暖化で,アジア域の夏のモンスーンの降水量の変動は大きくなる可能性が高い。モンスーンの平均的な期間の長さや強度の変化は,排出シナリオによって異なる。このような予測の信頼度は,モンスーンの季節的な進行の細部が気候モデルで適切に復元できるかどうかによっても影響を受ける。
熱塩循環
大部分のモデルによると,海洋の熱塩循環が弱まり,そのため,北半球の高緯度への熱の輸送が小さくなる。しかしながら,たとえ熱塩循環が弱まったモデルでも,ヨーロッパは温室効果ガス濃度の増加のため温暖化する。気候モデルを使った現在の予測では,2100年までに熱塩循環が完全に停止することは示されていない。2100年以降,放射強制力の変化が十分大きく,かつ十分長期間にわたるとなると,熱塩循環はどちらの半球でも完全に停止し,再び循環が起きることはないと考えられる。
雪氷
- 北半球の積雪域や海氷域は,さらに縮小することが予測される。
- 氷河や氷帽は,21世紀の間,広範囲にわたる後退が続くと予測される。
- 南極の氷床の質量は,降水量の増加によって増える可能性が高い。グリーンランドでは,降水量の増加よりもその流出量の増加が大きいので,氷床の質量は減る可能性が高い。
- 西部南極氷床は,海面下で陸地に接しているので,その安定性が懸念されてきた。しかしながら,この氷床の融解により海面水位の大幅な上昇が21世紀中に起こる可能性はかなり低いと現在では広く合意されている。ただし,氷床の力学は,特により長い時間スケールの予測に関して,まだ理解が十分でない。
海面水位
- 地球の平均海面水位は,SRESシナリオのすべての予測幅で,1990年から2100年までに0.09〜0.88m上昇すると予測される。この上昇の大部分は,熱膨張及び氷河と氷帽の融解による(図SPM-5e)。IS92シナリオに基づいた第二次評価報告書では,海面水位は0.13〜0.94mの上昇と予測されていた。今回の報告書で気温の変化予測が高くなったにもかかわらず海面水位の上昇がわずかに低くなっている主な理由は,氷河や氷床からの寄与が以前より小さくなるような改良したモデルが使われたからである。
人為起源の気候変化は,今後何世紀にもわたって続くと見込まれる
- 寿命が長い温室効果ガス(CO2,N2O,PFCs,SF6など)の排出は,大気組成,放射強制力及び気候に持続的な影響力を持つ。たとえば,CO2については,排出による濃度の増加量のおよそ4分の1が排出後数世紀にわたって大気中に残留する。
- 温室効果ガス濃度が安定化した後の地球の平均地上気温の上昇は,21世紀にその濃度が安定化しないとして予測される100年当たり数℃の上昇に比べてかなり小さな値であるが,100年当たり0.2〜0.3℃の割合で上昇するであろう。安定化する濃度レベルが低いほど,気温の総変化量は少なくなる。
- 深海が気候変化に適応する時間スケールは長いため,地球の平均地上気温の上昇と海洋の熱膨張による海面水位上昇は,温室効果ガスの濃度が安定した後も数百年間続くと予測される(たとえ現在のレベルで安定化したとしても)。
- 氷床は,気候の温暖化に反応し続け,気候が安定化した後数千年間にわたって海面水位上昇の一因となり続けると見込まれる。気候モデルによると,グリーンランドでの局地的な気温上昇量は,地球全体の平均の1〜3倍になる可能性が高い。氷床モデルによると,もし,グリーンランドで気温が3℃以上高い状態が数千年続くとすると,グリーンランドの氷床は完全に融けて,海面水位が約7m上昇すると予測される。また,グリーンランドで気温が5.5℃高い状態が1000年続けば,グリーンランドの氷床融解により,約3mの海面水位の上昇がもたらされる可能性が高い。
- 現在の氷力学モデルは,西部南極氷床がこの先1000年間に3mの海面水位上昇をもたらし得ることを示唆しているが,この予測結果は,気候変化シナリオ,氷力学及び他の要因についてのモデルにおける仮定によって大きく左右される。
さらに活動を重ね,気候変化に関する情報や理解の空白を埋めなければならない
気候変化の検出,原因特定及び理解の能力を向上させ,不確実性を減らし,将来の気候変化を予測するために,さらに研究を進めることが必要である。特に,新規の組織的かつ持続的な観測と気候モデル及び気候の諸過程に関する研究が必要である。観測ネットワークの衰退が深刻に懸念されている。高い優先度で取り組むべき分野を以下に挙げる。
- 世界の多くの地域における観測ネットワークの弱体化傾向を反転させる
- 統合的地球観測のための戦略を実施するなど,正確で長期にわたる,一貫したデータの提供を通じて,気候研究のための観測基盤を維持拡充する
- 過去の期間における気候の復元作業の進展を強化する
- 温室効果ガスとエーロゾルの空間分布の観測を改善する
- 気候モデルと気候の諸過程に関する研究
- 放射強制力の変化をもたらす機構と因子の理解を改善する
- 高度なモデルを用いた長期アンサンブルシミュレーションなど,気候の予測とシナリオの不確実性を低減させる手法を改善する
- 気候システムの物理的及び生物地球化学的両面において,重要ながら未解明の諸過程やフィードバックを理解し特徴を明らかにする
- 気候変動,地域的気候変化及び極端な現象をシミュレーションすることを主眼に,統合的な階層構造を持つ全球気候モデル及び地域気候モデルを改良する
- 物理的な気候と生物地球化学システムのモデルをより効果的に関連させ,さらに人間活動の振る舞いとの結合を改善する
これらの焦点的事項に横断的にいえることは,科学,計算機及び観測資源をより良く利用するために国際的な協力や調整を強化する必要性が極めて高いことである。科学者間の無料・無制限なデータ交換もまた促進すべきである。多くの地域,特に開発途上国において,観測及び研究に関わる能力を向上させることが特に必要である。終わりに,この評価報告書の目指すところでもあるが,研究の進展はいつも政策決定に資する表現で周知する必要がある。
排出シナリオに関する特別報告(SRES)の排出シナリオ
脚注一覧