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ホーム > 気象統計情報 > 地球環境・気候 > 異常気象レポート > 異常気象レポート2005 本文 > 3.4.2 海洋の循環の変動

3.4.2 海洋の循環の変動

 海面から水深1000m程度までの海洋の流れを、長期間にわたって平均すると、海洋にはいくつかの大規模な水平方向の循環があることがわかる。北半球では、熱帯域には反時計回りの熱帯循環、亜熱帯域には時計回りの亜熱帯循環、亜寒帯域には反時計回りの亜寒帯循環がある。これらの循環は、洋上を吹く風が海面に及ぼす力(応力)によって駆動されているが、地球の自転による効果のために、西に偏った分布となっている。北半球の亜熱帯循環を例にとると、西岸付近に幅の狭い強い北向きの流れ(西岸境界流と呼ばれ、北太平洋では黒潮にあたる)があり、その東側はゆっくりとした南向きの流れがある領域となっている(図3.4.4)。


図3.4.4 北太平洋における海面から水深1000m程度までの海洋循環の模式図
赤は亜熱帯循環、ピンクは熱帯循環、青は亜寒帯循環を示す。

 洋上を吹く風の強さやその分布が変動すると、海洋の循環の状態が変動する。一方、海洋の循環が変動すると、表層で南北に運ばれている熱量が変化し、海面水温の変化をつうじて大気の変動に影響を及ぼしていると考えられている。特に、北太平洋では10年程度の時間規模の気候変動があることが知られている。その変動メカニズムについては、これまでにさまざまな仮説が提示されてきているが、いまだに結論は得られていない(詳しくは1.7節を参照)。しかし、その熱容量の大きさなどから気候変動に対して海洋が大きな役割を果たしていることは間違いない。これらの仮説を検証し、気候変動のメカニズムを解明するためには、海洋の循環の変動の実態と気候変動における役割を明らかにすることが重要である。

 北太平洋の海流系(図3.4.4)のなかで、北太平洋における10年程度の時間規模の気候変動と深く関連していると考えられているのが、亜熱帯循環の西岸境界流である黒潮とその下流にあたる黒潮続流である。それは、黒潮および黒潮続流の流域である本州の南方および東方の海域が、北太平洋において最も多く海洋から大気へ熱を放出している海域であり、また、この海域で大気に放出される熱は、黒潮が大量の熱を低緯度から中緯度へ運ぶことによって補われているためである。

 気象庁が定期的に観測を行っている東経137度線における黒潮流量は、10年程度の周期で変動し、1970年代後半から1980年代前半にかけて大きく増大していた(1.6.2項参照)。この黒潮流量の増大は、1976/77年を境に北太平洋上で偏西風が強まることによって引き起こされた海洋内部の水温分布の変化が、ロスビー波(大気や海洋の状態が西向きに伝播する長周期の波で地球の自転の効果が緯度によって異なることにより維持される)によって西に伝わることによって起こったことが示されている(Miller et al., 1998; Deser et al., 1999など)。このような水温分布の変動を伝えるロスビー波の速さは緯度によって異なり、北緯30〜40度では太平洋の中央域から太平洋西部の日本付近まで3.5〜6年程度で伝わっていると見積もられている(Deser et al., 1999)。本州南方における黒潮流量は、中部太平洋における風の変動から約3年(Yasuda and Kitamura, 2003)ないし約5年(Hanawa and Kamada, 2001)遅れて変動している。

 1990年以降の東経137度線における黒潮流量は、1996年頃に極小、2000年頃に極大となる変動を示していた(1.6.2項参照)。この変動は、Qiu(2002)が衛星に搭載された海面高度計のデータを用いて示した黒潮続流の強度の変動と傾向が一致している(図3.4.5)。Qiu(2002)によると、黒潮続流域の流れの特徴は、(a)東向きの流れが強くて流軸が北に寄り、黒潮続流の南側の再循環も強い状態(伸張期)と、(b) 東向きの流れが弱くて流軸が南に寄り、南側の再循環が弱い状態(縮小期)とに分けられる(図3.4.6)。1990年代の状況をみると、1992年〜1996年の期間にゆっくりと伸張期から縮小期へ遷移し、1999〜2000年にはふたたび伸張期に戻っている(Qiu, 2002)。これらのことから、2000年頃は亜熱帯循環域は循環が強い状態にあったと考えられる。


図3.4.5 衛星海面高度計による、(a)黒潮続流を挟んだ海面高度の差 (単位: m)、(b)黒潮続流の流れの強い位置の緯度、(c)黒潮続流南側の再循環域における海面高度(単位: m)
すべて、東経141度から180度までの平均値。Qiu(2002)のFigure 8に加筆。


図3.4.6 黒潮続流とその再循環の変動の模式図
Qiu(2002)のFigure 6に加筆。

 Vivier et al.(2002)やDong and Kelly(2004)は、黒潮・黒潮続流や大西洋における湾流の強度で示される亜熱帯循環の変動と、大気海洋間の相互作用に深く関係する海洋の貯熱量の経年変動との関係を、1990年代に得られた衛星による海面高度データと数値モデルを使って評価している。それによれば、西岸境界流域では循環が強くなると、黒潮・黒潮続流や湾流のすぐ南側の再循環域で海面水温の上昇と貯熱量の増加、さらには海洋から大気への熱の放出量が増加している(図3.4.7)。2000年頃は北西太平洋の亜熱帯循環が強く、図3.4.7の“伸張期”にあたることから、この海域における貯熱量や海洋から大気への熱の放出量も多かったと考えられる。


図3.4.7 大西洋におけるメキシコ湾流の(a)伸張期と(b)縮小期の模式図
等値線は海面高度や貯熱量を示す。オレンジの矢印は海洋の循環による移流を、赤の矢印は海洋から大気への熱の放出をあらわし、矢印の長さはその強さをあらわす。伸張期には海洋による熱の移流量が大きいことに対応して、貯熱量は大きく、大気への熱の放出量も大きくなる。 Dong and Kelly(2004)のFigure 14より。



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