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ホーム > 気象統計情報 > 地球環境・気候 > 異常気象レポート > 異常気象レポート2005 本文 > 1.7.2 北極振動(AO)と北大西洋振動(NAO)

1.7.2 北極振動(AO)と北大西洋振動(NAO)

(1)北極振動とは

 北極振動(Arctic Oscillation: AO)は北半球においてもっとも顕著にあらわれる半球規模の大気の偏差構造であり、Thompson and Wallace(1998)によってこの名称が用いられ、近年その偏差構造が顕著な長期的傾向を示していることから、特に注目されてきている。AOの指標(インデックス)は北半球(北緯20度以北)の海面気圧の第1経験的直交関数(EOF)で定義される。これにともなう海面気圧の偏差は図1.7.4に示されるように北極で負偏差、その周りの中緯度で正偏差の環状パターンである。少し詳しくみると、負偏差の中心は北極ではなくアイスランド付近にあり、中緯度の正偏差も北大西洋と北太平洋で大きな値を示す。これらは平均状態では蛇行して谷となっているところで流れが帯状になることに対応しており、また北大西洋および北太平洋で波動の活動度が大きいこととも関連していることが示唆される。3次元的にみると、AOは順圧的な構造をもっており、その環状パターンは成層圏にまで達していることが多く(このためNorthern Annular Mode: NAM(北半球環状モード)と呼ばれることもある)、成層圏における極夜ジェットの変動と相互作用があることが示唆されている(Baldwin and Dunkerton, 1999; Kuroda and Kodera, 1999)。

図1.7.4

図1.7.4 北極振動にともなう海面気圧偏差
等値線間隔は0.5hPa。負の領域に陰影。Thompson and Wallace(2000)のAOインデックスを用いてNCEP/NCAR再解析データの1958〜1997年の各月の海面気圧の回帰係数を求めてプロットした。山崎(2004)より。


(2)北大西洋振動との関係

 北大西洋には、古くから知られた顕著なテレコネクション・パターン(テレコネクション: 大気大循環の偏差場によって遠く離れた場所での大気が同期して変動すること)の一つである北大西洋振動(North Atlantic Oscillation: NAO)がある。これは冬のアイスランド低気圧と北大西洋中緯度のアゾレス高気圧がともに強まる状態を正のNAO、ともに弱まる状態を負のNAOとする指標で定義される(詳しくはHurrell, 1995)。NAOにともなってあらわれる北半球の海面気圧パターンは、太平洋を除けばAOのパターンとよく一致することや、NAOとAOのインデックスは有意な高い相関をもつことなどから、NAOがAOの主要部分であるとする見方がある。


(3)日本の気候への影響

 AOにともなってあらわれる北半球地上付近の気温偏差を示したのが図1.7.5である。AOインデックスが正のとき、ヨーロッパからユーラシア大陸上、極東まで気温の正偏差があらわれ、その影響は北日本にまで及ぶ。実際、AOインデックスと札幌の気温の時系列は有意な相関(相関係数:0.66)を示し、AOが正であると北日本を中心に暖冬となる傾向があることが報告されている(気象庁, 2004)。しかし、図からもわかるように日本付近はAOの影響の縁にあり、またエルニーニョ現象など熱帯太平洋の影響も大きく受けるため、北ヨーロッパなどと比較してAOとの関係が単純でない。

図1.7.5

図1.7.5 AOインデックスに回帰した冬(12,1,2月平均)の925hPaの気温
NCEP/NCAR再解析データ(1949〜2002年)を使用した。山崎(2004)より。


(4)観測されているAO/NAOの長期変動

 AOは、10日程度の短い時間スケール、年々から十年規模の変動、さらにそれ以上の長期傾向を示す。20世紀後半、特に1970年代以降においては、大きな強化傾向(AOインデックスの増加傾向)を示すことが注目されている。北半球における地上気温の最近約30年の長期傾向は、ユーラシア大陸北部および北東部を除く北米で大きな昇温を示し、北アメリカ大陸東部のニューファンドランドからグリーンランド南部にかけてわずかに寒冷化している。これはAOにともなう気温偏差(図1.7.5)と似たパターンで、北半球の気温の地域的な変化傾向のかなりの部分がAOの変化によって説明されることが指摘されている(Thompson et al., 2000)。

 AO/NAOは大気の変動であるだけでなく、海洋にも影響を与える。特に北大西洋海面水温の長期変動はNAOと高い相関をもち、NAOの正位相にともない北緯40度付近を中心とする中緯度で正偏差、その高緯度側および低緯度側に負偏差をもつ三極パターン、さらに赤道を挟んだ双極パターンをともなう大西洋全体にわたる変動パターン(Xie and Tanimoto, 1998)とも関連している。このようなAO/NAOにともなう海洋の変化は、さらにさまざまな気候への影響を与える。例えば北大西洋におけるハリケーンの活動の長期変動が三極パターンの海面水温変動と相関がある(Goldenberg et al., 2001)ことなどが示されている。


(5)長期変動の原因

 短い時間スケール(数日から季節内変動)のAO/NAOについては大気内部の力学によるとされているが、数年から数十年スケールの変動の原因については十分解明されていない。しかしながら、気候変動における海洋の役割という観点から、長い時間スケールをもつ海洋の変動がAO/NAOの長期変動にかかわっていることは容易に予想される。大気大循環モデルに海面水温の変動を与えた実験によって、観測されたNAOの長期変動が再現されたという報告(Rodwell et al., 1999)があるが、一方で中高緯度の海面水温変動はそれ自身、大気の影響を大きく受けているため、単純に海洋が原因であるとは断定できない。

 一方、最近のAOの強化傾向については、温室効果気体の増加による温暖化の影響であるとする見方がある。いくつかのモデルによる温暖化実験では、AOが強化傾向の応答を示すことが報告されている(Shindell et al., 2001; Gillett et al., 2003; Osborn, 2004)。しかし概してモデルは観測に比べて長期傾向の振幅が小さい。温室効果気体が増加すると下部成層圏で気温が低下することにより極渦が強まり、それが成層圏の力学をつうじてAOの正偏差をもたらすと考えられており、成層圏を十分な高さまで表現できるモデルを用いる必要が指摘されている(Shindell et al., 2001)。一方、成層圏ではなく海面水温の長期傾向が原因であることを示唆する研究もある(Hurrell et al., 2004)。しかし、現在のところ、AO/NAOの長期変動およびその長期傾向については、どれが主要な要因か明確になっていない。



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